港の整備が「まち」を作る: 小名浜の港湾イノベーション7

「ニーズ先行」がもたらす港湾イノベーション

 いずれにせよ、こうした(潜在的な需要まで見据えた)「ニーズ先行」の姿勢はインフラ整備に携わる人々にとっては当たり前のこととも言えるのだが、本稿の冒頭でも指摘したように、その「ニーズ先行」の姿勢こそがイノベーションをもたらすうえで、何よりも大切な必須条件なのである。  すなわちニーズ先行でインフラ整備が進められれば、そのインフラはその地に確実に、深い部分での構造的変化、すなわちイノベーションをもたらすのである。  そもそもインフラとは文字通り「社会の基盤」である以上、そこに一定のニーズがある限りにおいてその整備は巨大な影響力を持つのも当然なのだ。  単に船の荷物をあげ降ろしするためだけの「埠頭」のインフラ整備は、その地に東北のみならず関東の重要な電力供給基地の形成を促し、さまざまな工場群が形成される。  と同時に、近隣の観光地(スパリゾートハワイアンズ:旧常磐ハワイアンセンター)からの観光需要にも対応する観光施設(水族館、観光物産センター)まで整備されるに至る、巨大なポテンシャルを持っているのである。  港湾の「都市形成力」に着目せよわが国で「地域活性化」や「地方創生」の重要性が叫ばれて久しいが、そんな中で、この小名浜の事例が指し示している「港湾整備」が持つ巨大な都市形成力は、極めて重大な意味を持っている。  港湾整備は、既存の都市や地域を活性化させるだけでなく、何もなかった地に一つの大きな工業都市を一から作り上げるほどの巨大パワーを秘めている。  地域の活性化を考える者が、この港湾整備の巨大パワーに着目しないのは不条理極まりない愚挙だとすらいえよう。

東日本大震災復興のシンボル的事業

 だからこそ、東日本大震災で深く傷ついた福島県は今、この小名浜の港湾プロジェクトを復興のシンボル的事業の一つとして位置付けているのであり、日本国政府も新しい時代の国家的エネルギー基地に位置付けようとしているのである。  未来に向けた果敢なチャレンジである大規模な未来投資なくして、イノベーティブな地域の発展も国の発展も見いだし得ることはない。  この小名浜で果敢に展開された港湾整備に基づく地域イノベーションを、日本各地で展開できる勇気と活力が、わが国日本にいまだに残されていることを心から祈念したい。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。
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