鉄道が導く「都市と国土のイノベーション」6

総理演説「地方創生回廊」論の背後にあるもの

 先に述べた「新幹線の都市と国土に対する巨大なディープインパクト」の存在に鑑みれば、この新幹線ネットワークの整備について「巨大格差」が、東京一極集中を生み、関西の地盤沈下をもたらし、地方を疲弊させ続けている重大な原因となっていることは明白だ。  そうである以上、もしも地方創生や東京一極集中緩和、大阪・関西の発展を祈念するなら、新幹線についてすでに政府が策定している計画を、前に進めていくことを政治的に決断することが必要であることもまた、明白だ。  折りしも、平成28年9月の国会における所信表明演説で、安倍晋三総理大臣は「整備新幹線の建設も加速し、東京と大阪を大きなハブとしながら、全国を一つの経済圏に統合する『地方創生回廊』を整えます」と宣言しているが、その宣言の背景には、以上に述べた新幹線による国土イノベーション力についての理論的、実証的な知見があったのである。  この所信表明通りに、適切な財政措置が施され、速やかに全国の新幹線ネットワークが整備されんことを、心から祈念したい。

都市交通のための「政治的意志」

 ただし、この「適切な財政措置」というものが、昨今の緊縮財政が旺盛に進められる政治状況の中では、極めて難しいのが実態だ。  整備費用は今、中央政府の予算ベースで「年間755億円」という水準だが、これは、公共事業関係費の1%程度の水準に過ぎない。新幹線が持つ大きな「都市・国土イノベーション力」に鑑みれば、この水準は低すぎるものと言わざるを得ない。 「国益」を見据えて、予算を柔軟化させる(つまり、効果的な項目の予算を、選択と集中で増やしていく)態度や姿勢は、「ワイズスペンディング」と呼ばれるものであり、そして当然ながら日本の政府においてもこのワイズスペンディングの態度を徹底していくことが必要なのだが、今のままでは、地方の新幹線整備は総理演説とは裏腹に遅々として進まなくなるだろう。  結果、東京一極集中と地方の疲弊は同時進行していくことは火を見るより明らかだ。  ただしこの「ワイズスペンディング」の姿勢でもって、予算を集中的に拡充していくことが求められているのは、何も新幹線だけではない。  通常の都市鉄道についても同じ事情だ。そもそも、国費における鉄道予算そのものが、極めて限定的な水準になっている。  それにもかかわらず、毎年徐々に削減され、平成28年現在、鉄道予算(公共事業関係費)は992億円にまで縮減されている。このことはつまり、新幹線以外の予算は、238億円にまで縮減されていることを意味している。 その結果どうなったかといえば──東京一極集中投資のさらなる進展だ。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。
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