『大きな努力で小さな成果を』について(2)

鍵山2(枯葉:縮小:亀井民治)

歩道脇の側溝にたまった枯れ葉を、腹ばいになって素手でかき集める鍵山氏(写真撮影:亀井民治)

原点

 本書『大きな努力で小さな成果を』の冒頭には、「私の原点」として、生い立ちが記されている。そこに、お父様のことがこう書かれている。  「父、幸三郎は言葉で何かを説く人ではありませんでしたが、やることすべてが緻密で、徹頭徹尾、妥協せずにやり抜く人でした」  これはまさに実践の人、鍵山先生そのものではないか――。やはり、鍵山先生も、そういうお父様がいらしたからこそなのだな、と合点される方が多いに違いない。  さらに、「私の原点」は、こう続いている。  「家での掃除は徹底的でした。玄関の格子戸の桟はやがて細くなり、家の柱は角が丸くなりました。それほどまでに一日に何度も拭き掃除が励行されたのです。これは掃除を怠れば、家人の心はすさみ、言動はやがて粗暴になるという両親の信念からの行いだったように思います」  鍵山先生といえば「掃除」だ。それもトイレ掃除。しかも素手で便器に正対する。まさにその「原点」がここに記されている。  では、なぜ、ご自身が掃除をはじめたのか。そのきっかけはこうである。  昭和36年にイエローハットの前身となる会社を創業。翌年から社員が二人、三人と集まってきたものの、高度経済成長の時代、人手不足のおりに来てくれた社員は、方々を転々と渡り歩き、いやな目にあったり、痛い目にあったりして、心がすさんでいたという。  言葉遣いも、態度も表情も険しく、外へ行って営業で相手から屈辱的な目にあったりすると、心がささくれだって帰ってきて、机を蹴ったり、カバンを投げたり、ドアをバタンと閉めたり、粗暴・粗野になっていたという。  「これを何とかして穏やかな心にするためにはどうしたらいいか」と考えたという。  「まず環境をきれいにすることが大事だと思って掃除に取り組んだのです。なぜかというと、人間はいつも見ているもの、接しているものに心が似ていくと言います。きれいな環境にいれば、皆の心も穏やかに、きれいになっていくと信じて、徹底した掃除に取り組んだのです…」  しかし、なかなかその効果は出なかったという。 (次回に続く) 鍵山秀三郎(かぎやま・ひでさぶろう) 昭和8(1933)年、東京生まれ。昭和27(1952)年、疎開先の岐阜県立東濃高校卒業。昭和28(1953)年、デトロイト商会入社。昭和36(1961)年、ローヤルを創業し社長に就任。平成9(1997)年、社名をイエローハットに変更。平成10(1998)年、同社取締役相談役となり、平成20(2008)年、取締役辞任。平成22(2010)年、退職。創業以来続けている掃除に多くの人が共鳴し、その活動はNPO法人「日本を美しくする会」として全国規模となるほか、海外にも輪が広がっている。著書に『凡事徹底』『続・凡事徹底』(以上、致知出版社)、『鍵山秀三郎「一日一話」』『すぐに結果を求めない生き方』(以上、PHP研究所)などがある。
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