「不都合な在日たち」生島マリカ×安宿緑の在日女子対談

生島マリカ『不死身の花』

写真はアラーキーが撮影した「不死身の花」カバーより

 著書『不死身の花』では13歳からストリートチルドレンとして夜の街で生活し、文中では在日韓国人二世としてのアイデンティティにも触れ、自身の壮絶な生い立ちを語り尽くし、無名作家のデビュー作としては異例の売り上げを記録した生島マリカ氏。片や朝鮮学校から朝鮮大学校を卒業後、朝鮮総連に勤務していた経験を元に、北朝鮮人民のリアルを“BL好きの腐女子ライター”という立ち位置から軽やかに綴った『実録・北の三叉路』が思想を超えて注目される安宿緑氏。ともに在日2世である彼女たちが、昨今の在日事情、“近くて遠い祖国”について語り合う貴重な対談が実現した。

 * * *

――お二人は今日が初対面ということですが、それぞれの印象はいかがでしょうか。

生島:twitterを介してのやり取りがあったから、初対面って気はしないですね。本の印象どおり知的な女性だし、でも想像してたより腐女子感は薄いかな(笑)。

安宿:生島さんは、想像以上に男前で……ちょっとビビってます(笑)。

生島:あはは。取って食ったりしませんよ! 私は韓国籍の在日2世なんですが、日本の公立学校に通っていたので、いわゆる民族学校といわれる朝鮮学校、金剛学園(※韓国、日本両政府認可の私立学校)のことは出身者から聞く情報でしか知り得なかったんです。ただ、北と南の違いはあっても、在日全般とは触れ合う機会は多かったので、特に朝鮮学校に通う、彼、彼女らが大なり小なり例外なく複雑な感情を持っているだろうことは想像に難くなく、ずっと気になってました。在日の私ですら、朝鮮学校や北朝鮮のリアルな姿が分からないのに、ましてや日本人に分かるはずない。これだけミサイルだ、拉致だってやってて、一般の人からしたら「朝鮮学校はカルト」と思われても仕方がない部分もあるし、ある種、朝鮮学校や総連のことってタブー化してるでしょ? 知らないから余計な妄想が膨らんでネガティブなイメージばかり広がってるんじゃないかと心配に思うんですよ。特にネット上ね。日本人にも在日にもいい加減なことを拡散してる人達が多すぎて、私は危機感を持ってるんです。国のことは国のこと。国家同士のことは本来は民族学校に通う子どもらには何の関係もないし、どんな罪もないはずなんだから。

安宿:そうですね。「スパイ養成所出身のくせに!」みたいな、的外れなことを言われることはままあります。ただ総連側も、どんなに北朝鮮のポジティブな情報があっても、どうせまともに取り扱ってもらえない、叩かれるだけだと諦めてる部分もあるので……悪循環に陥ってることは否めないですね。

生島:実録・北の三叉路』は、ハードな題名と表紙に反し、いまどきの女性らしいポップな文体で読みやすいし、何より面白い。民族系の書物って、恨みつらみを聞かされてるような重くて暗いものが多いじゃないですか。せっかく興味を持ってくれた人も嫌になるようなね。そこにきちんとしたバックボーンと冷静なスタンス、ユーモアと勇気を持って風穴を空けた安宿さんは素晴らしいと思うんですよ。安宿さんの貴重な体験を是非、多くの人に読んでもらいたい。

安宿:ありがとうございます。私は逆に『不死身の花』を読んで、生島さんが幼少期から在日だということでひどいいじめに遭っていたことに衝撃を受けました。私の母は78歳ですが、母から聞かされていたいじめと同じことが30年以上若い世代でも未だに行われているのか! と。

――安宿さんにはそういう経験がない?

安宿:twitterでネトウヨに絡まれることはあっても、在日だという理由でいじめられたことはないですね。意外に思われるかもしれませんが、twitterでも保守系の方のフォロワーの方が多いくらいなんですよ。子どもの頃は、北のコミュニティの中にいたことで中2病みたいになってしまって、マンセー! って本気で思ってたクチですが(笑)。

生島:あれ、高揚感があるからハマるらしいですね(笑)。いじめがひどかったのは大阪という土地柄もあると思います。在日人口が多い土地というのは、それだけ色んな在日がいるということですからね。子どもの頃、生野区という在日が多い地域にある韓国系の教会に通わされていて、そこで南北在日のコミニュティを知るんですよ。団結力があって逞しいので、羨ましかったです。私はそこに住んでいなかったから。

安宿:在日の98%は韓国籍で、我々は少数派な分、強力なネットワークという後ろ盾がある。そういった安心感はありますね。あと学校ではマンセー! すればするほど先生に褒められますから……。でも、やりすぎて、先生やクラスメイトからこいつちょっとおかしいなって思われてましたよ。

生島:優等生とか、向上心のあるタイプほどそうなりがちなんですよね。

安宿:私の場合、向上心というより中2病的なアレで……(笑)。でも、確かに日本人の学校にぽつんと入れられたら、それは可哀想かなと思います。仲間がいないから病んじゃう子も多くて。総連で働いていた時に、全国からそういう子を数百人集めたサマーキャンプの運営に携わってたことがあるんですが、三日くらい交流会やワークショップ、討論会なんかをすると、本当にディープな悩みを抱えていてこんなに苦労してるんだ……と思わされたことはありました。最終日のキャンプファイヤーでリーダーが「朝鮮人最高――!」って叫ぶと、うぉ~~~!って、やたら盛り上がって。

生島:絆が生まれると(笑)。ただ、それが悪い方に走る場合もありますよね?

安宿:それは否定できません。私は、アンチレイシズム、恨みを中心にアイデンティティを確立するのは違うと思っています。日本人でも、朝鮮人でも、基本的には普通の人じゃないですか。一般市民という意味では同じなのに、アンチレイシズムが朝鮮人、在日のアイデンティティだ! となることには違和感しかありません。

生島:「在日が国籍だ!」って言い出す人とかね(笑)。

安宿:いますね。

生島:私は恐ろしいことだと思っています。特に市井の人の中でもネットの存在感が高まるにつれ、関心が高まることは良いことだけど、民族問題をネタにすることがちょっとしたブームみたいになってるでしょ。でも、深刻なレイシズムが本当にあったら、全国にこれだけ沢山の焼き肉屋さんはないですよ。

安宿:日本に生まれて良かったというニュアンスのことを言ったら、ネトウヨから「北朝鮮を見捨てるな!」って言われたことがあるんですが、見捨てるつもりなら、こんな本書かないですよ(笑)。北朝鮮の人民にも、政治的なこととは無関係に普通に幸せな生涯を送ってる人はたくさんいる。

生島:反日感情がある在日が皆無だとは言いませんが、ネトウヨにしても、左翼系知識人にしても、在日はすべて反日感情を抱いていて日本人を恨んでる、あるいは可哀想な存在で被害者、のどちらかでないと困るんですよね。そういう意味で、私も安宿さんも彼らにとっては非常に都合が悪い存在なのかな。

安宿:不都合な在日でしょうね。

生島:私はね、安宿さんの本の中で、韓国のイミグレーションでの下りに泣いたんですよ。

――安宿さんが初めて海外旅行をする際、北朝鮮パスポートで羽田からソウルの仁川空港でトランジットしてトルコへ行くという場面ですね。多くの日本人は、在日北朝鮮人がパスポートを取るのにこんなに苦労しているということを知らないと思います。

安宿:歴史的な背景を含め非常に複雑ですから、知ろうとしてもなかなか正確な情報に辿り着けないですしね。

生島:韓国の入管で職員が、ものすごく驚きながらも喜ぶでしょ。

――イミグレの人の対応がすごく印象に残るくだりですね。「何これ!? 北韓(北朝鮮)の人!?」と驚き、安宿さんがどうせ捕まるならと満面の笑みで「ハイ!! そのとおりです!!」と答えると、「ちょうど暇で暇で退屈だったんですよ。北韓のパスポート初めて見れてよかった~。楽しませてくれてカムサハムニダ」と言って固い握手を交わす……という。

生島:本当に感動しましたよ。一般的な感覚って、こういうことじゃないですか。南北統一! とか言うと、日本では特に政治的に強烈な思想があって、危ない人間みたいな印象を持たれることが多いけど、そんなことじゃないんですよ。いがみ合うことを望む人なんて、少数なはずです。普通の人にはいません。

安宿:北朝鮮だろうが韓国だろうが、在日という存在は、一言では語ることができない玉虫色の存在だと思います。ただ、普通の市民が圧倒的だということを、忘れて欲しくないですね。

【生島マリカ】
1971年、神戸市生まれ。最終学歴小学校卒。在日2世。複雑な血筋の両親のもと、幼少期はお手伝いさんに育てられる。異母異父姉兄9人。生母の没後、父親の再婚を機に13歳で家を追い出され、単独ストリート・チルドレンとなる。その後、モデルに。秘書、北新地と銀座のホステス、クラブ経営などを経て3度の結婚と離婚を繰り返す。2012年夏、真言宗某寺にて得度。著書に「不死身の花」(新潮社)

【安宿緑】
ライター、編集者。元朝鮮青年同盟中央委員。元朝鮮籍で、現在の国籍は韓国。北朝鮮の政治や民族問題に疲れ、その狭間にある人間模様の観察に主眼を置く。「ライター安宿緑の北朝鮮ブログ」が話題となる。著書に「実録・北の三叉路

<取材・文/日刊SPA!編集部>

不死身の花

夜の街を生き抜いた元ストリート・チルドレンの私


実録・北の三叉路』安宿緑・著 双葉社 本体1300円+税

父親は北朝鮮出身、母親は在日韓国人2世。朝鮮学校から総聯勤務の腐女子ライターが振り回され続けた「北」と「南」そして日本。

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