山口六平太こそ社畜の鏡だ!
―[30代のための社畜幸福論]―
「プライベートより仕事優先」「自分の意に反しても会社の命令には絶対服従」――そんな話を聞けば、誰もが心の中で「社畜か。気の毒に」と呟くだろう。だが、彼らは本当に「気の毒」なのだろうか。大して会社に尽くそうとせず、かといって独立する気概もなく、中途半端に会社に居続けるあなたより、彼らのほうがずっと成功しており、幸せなのではないか?
◆「社畜」を楽しむためのオススメ漫画
「漫画」はいつだってサラリーマンの友。そして、時代の「サラリーマン像」を反映する鏡だった。
バブル崩壊で経済成長が滞る’90年代以降、『島耕作』のような会社人間キャラは減り、’00 年代に入ると「等身大」のキャラクター(出世に縛られない、会社に過度な期待をしない、など)が活躍するようになった――と分析するのは、『サラリーマン漫画の戦後史』の著者である真実一郎氏。
では今、改めて「社畜」を見直したい我々が読むべき漫画とは?
真実氏が真っ先に挙げたのは『山口六平太』。バブル景気とほぼ時を同じくして連載が始まり、その後の「アンチ社畜」の風潮のなかでも変わらず続いてきた作品だけあって、「サラリーマンの普遍的な生き方」のヒントがそこにはある。
「このような、ジェネラリストの男性社員が人柄を武器に成長していく“最大公約数的サラリーマン漫画”は、読者層が高齢化しています。でも、実は若い人へのメッセージも多いんですよ」(真実氏)
●『総務部総務課 山口六平太』
林 律雄(作) 高井研一郎(画) 小学館 既刊66巻
絵柄は古いが、若者向けメッセージも豊富
「『サラリーマンの給料は我慢料』なんていうセリフが出てくるほど、登場人物は皆、社畜。ですが、総務課という裏方仕事のなかに日々喜びを見いだして前向きに働いているので、読んでいると心が浄化されます。副題が〈サラリーマンの応援歌〉であることからもわかるように、サラリーマンが凹んだときに読むと効果テキメンですよ」
●『中春 こまわり君』
山上たつひこ 小学館 既刊2巻
少年時代に『がきデカ』を読んでいた人は必読
「あのこまわり君が、我々普通のサラリーマンと同じように、上司の理不尽な業務命令に従い、痛風を患い、仕事帰りには同僚としんみり酒を飲んでます。そんな哀しい加齢臭を漂わせながらも、自己憐憫より、むしろハードボイルド小説のようなダンディズムを感じさせるのが面白い。中年サラリーマンになるのも悪くないな、と思えるのでは」
◆『午前3時の危険地帯』
ねむようこ 祥伝社 全4巻
「ブラック企業の社畜」にも“意味”はある!
パチンコ店向けPOPなどが専門の小さなデザイン会社が舞台。「やりたいわけではない仕事を、低賃金で、残業続きでこなさなければならない――そんな無法地帯のなかでも“やりがい”を見いだし、同世代の社員と仲間関係を築いていく。こういう働き方は長く続けられるものではないけど、“修業期間”として、実はすごく実りがあるんですよ」
【真実一郎氏】
ブログ「インサイター」管理人。本誌書評欄にてコラム「サラリーマン文化横丁」を連載中。著書に『サラリーマン漫画の戦後史』(祥伝社)
取材・文/古澤誠一郎 藤田美菜子(編集部)
― 30代のための社畜幸福論【6】 ―
『サラリーマン漫画の戦後史』 漫画の中のサラリーマンを見れば時代が見えてくる |
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