昭和の街並みが失われつつある「立石の呑んべ横丁」にスナック芸人・玉ちゃんが潜入
昭和の風情を残す東京・葛飾区の「立石」――大衆酒場街として昨今は人気を集めているが、そのエリアも現在は、再開発による消滅の危機にある。
かつては住宅街や工業地帯、赤線がある街として賑わい、現在は昭和レトロな飲み屋の街として注目されている。TVドラマ『ど根性ガエル』のロケ地としても知られ、その懐かしい雰囲気を目にした人もいるだろう。そして沿線から取り残された京成立石駅の高架化と、駅周辺の再開発が計画されているのだ。
現在のごちゃごちゃした雰囲気を、仲見世も呑んべ横丁もすべて取っ払って、おしゃれな広場と複合ビルのある街に変貌させようというのが、葛飾区と京成電鉄の思い描く「21世紀の立石」の姿である。羽田空港、成田空港、品川駅へと1本で行ける交通の便のよさ、踏切が往来の妨げになっており、密集した飲み屋街の防災といった安全面で問題とされていたことから仕方ないのかもしれない。
そこで今回は、芸能界一のスナック通で「いつか行きてぇ、いつか行きてぇと思ってた憧れの地なんだ」と話す浅草キッド・玉袋筋太郎氏とともに京成立石を訪れた。意外にも、玉ちゃんは「立石に来るのが初めて」なんだそう。
駅の北口を少し歩くと「呑んべ横丁」と書かれた雰囲気たっぷりの看板が見えてくる。細長い2本の路地に、2階建ての居酒屋やスナックが顔を合わせてびっしりと並んでおり、場内には横丁の特徴である共同便所も。地元では「ションベン横丁」とも言われている。
温かい雰囲気に誘われて最初に訪れたのは、白い壁と風格たっぷりの看板、すべてが昭和のオーラを放つ『伯爵』だ。1967(昭和42)年にオープンし、今年で48年目。「呑んべ横丁」でも最古参のスナックだ。
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偶然にもオープンが玉ちゃんの生まれ年と同じということで、すっかりママと意気投合。「当時ね、コンテッサ(伯爵夫人)っていう日野自動車のクルマがあったでしょ、あれが好きだったから名前にしたの。お客様が伯爵で、あたしはしもべでっていう気持ちでね」と美都里(みどり)ママが笑顔で話す。
「昔はお寿司屋さんが2軒、ラーメン屋さんが2軒、それからカバン屋さんとか、お花屋さんとか、ありとあらゆるお店が入ってたの。ちゃんとした手続き上の名前は、今でも立石デパート商店会の『伯爵』なのよ」
そう美都里ママが話すように、当時は「立石デパート商店会」と呼ばれ、最盛期には30軒の店で賑わっていた。しかし今では、横丁で営業している店は20軒ほどだという。
そんな「呑んべ横丁」も、駅の高架化の影響は避けられない。ママはさみしそうに「来年だったら会えなかったわね」とポツリ。荻窪にも再開発の波は押し寄せているが、地主が多くなかなか計画が進まない。一方の「呑んべ横丁」はたった一人の地主所有で、一人がOKと言えばあっという間に壊されてしまうのだ。
新宿で生まれ育った玉ちゃんにも感じるところがあるようだ。
「新宿でちっちゃい頃から育って、やっぱ変わっちゃったじゃないですか。もう変わったものは戻せないんですよ。そういうので考えるのが今回の新国立競技場ですよ。3000億だなんだっつって白紙に戻しましたなんてよ、あれはね、わたしの新宿のふるさとの風景なんですよ。それをね、ぶっ壊されて更地にされてね、それで新しいのつくらねぇとかつくるとか言ってんのはね、もう冗談じゃないと言いたいわけでございますよ。それぞれ立石で育った人もここがふるさとの風景だったりするわけじゃない。ふるさとの山を削られて黙ってられる? 山と変わんねえんだこんなの。たしかにわかるけど、少しは残せと言いたいよ」
ママにも小学2年生の孫ができたという。
「孫ができてから私の人生はバラ色になったの。孫は恋人と一緒ね」
そう明るい笑顔を振りまくママを慕って、横浜からも常連客が訪れる。50年近く通う80歳の常連客もいるというが、それも頷ける。
続いて訪れたのは、妖しげな赤紫ネオンの看板が輝く『ニュー姫』だ。「立石の生き字引き」「立石の広辞苑」と呼ばれる學(たか)ママが艶やかな着物姿で迎えてくれた。マツコ・デラックスにも絶賛された立石の名物ママだ。
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「呑んべ横丁」きっての老舗スナックを経営し、生まれも育ちも立石の學ママは「青学(青砥の学校)出身のなのよ」といきなりギャグをかましてくる。生まれてから70年間ずっと立石で暮らしてきたママは「空襲で葛飾区役所が燃えたのもちゃんと覚えているの。駅前は芋畑だったのよ」と当時の立石を振り返る。
「今の立石はどんな街になったの?」と玉ちゃんが聞くと「まぁ、180度変わりましたね」と話す。
「昔は大きい工場があったんです。そこでおじいちゃんが働いて、旦那が働いて、おじいちゃんの小遣いでみんな遊んで、若いコたちに飲ませて、筆おろしも飲むのもおじいちゃんが教えたもんですよ。みんないい人ばっかり。ここで野球拳やると冬なんかね、かわいそうにねラクダの股引一丁になってみんな踊りましたよ。そういう時代はもうないね」
「元気の秘訣はよく働いて、よく遊ぶこと。歳とったからって閉じこもっちゃダメ。死ぬときは家でもなく病院でもなく『姫』で死んでいきますから」
名物ママは立石に訪れる人を今日も元気にしてくれる。時代が変われば、街も変わる。ただ、昔懐かしい人情味が溢れるママたちの姿は変わらずあり続けているのだ。
最後に玉ちゃんはこう語る。
「地元の人は地元の人なりの考えがあるし、お客さんはお客さんの考えもあるんだけど、やっぱその、なんだろうなぁ、なくなるっつうのは寂しいんだよなぁ。初めて来たってそう感じちゃうんだから。なくなってからねぇ、あんときはよかったって言ったってしょうがねぇんだよ。今来なきゃダメなの。だってさ、街のにおいがなくなっちゃうんだよ、そういうのって。雰囲気だとか、空気とか変わっちゃうんだもん。そりゃあ確かにそっちのほうが便利なのかもしんないけどさ、う~ん、懐かしかったもんなぁ、仲見世入ったところ。初めてだけどね、初めてじゃないみたいな気持ちになっちゃって。きゅんときましたよね」
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【伯爵】
東京都葛飾区立石7-1-13 電:03-3693-4875
【ニュー姫】
東京都葛飾区立石7-1-6 電:03-3694-9606
<取材・文・撮影/北村篤裕>
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「玉袋筋太郎のナイトスナッカーズ」
■J:COMチャンネルにてオンエア
放送日程:9月1日~15日
放送時間:毎週木曜日 22:00 ほか
チャンネル: J:COMチャンネル【地デジ11ch】
※お住まいの地域によって放送時間が異なります
■MONDO TVでは9月から#1からオンエア
http://www.mondotv.jp/entertainment/snackers2
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