パート化、マニュアル化、コントロール化――日本人はいつまで“底辺への競争”に参加し続けるのか

グローバリズムとは何か?

<文/佐藤芳直 連載第3回>
 

ジャン=シャルル=レオナール・シモンド・ド・シスモンディ(1773~1842年)


 グローバリズムとは何か? 簡単に言えば、生産手段をしっかりもった国が、大量生産の技術を生かして、発展途上国に輸出をしていくという考え方である。そうすると、発展途上国に輸出をするわけだから、グローバリゼーションというのは根本的には価格競争になる。

 グローバリゼーションは“底辺への競争”と言われるが、みんな安くつくって発展途上国に輸出することを考えれば、世の中の経営の二大原価は人件費と原材料であるから、原材料を供給してくれる生産者をたたくか、人件費を軽減させるかの二つしか価格競争の行く末はない。しかも価格競争というのは、最終的には独占の方向に行くので、資本力の大きいところが勝つ競争だ。価格を武器にして悪いということはないが、価格を武器にするならば、規模的な一番企業、つまり資本力一番企業を目指さなければ、絶対に長期的には生き残れない。これは価格競争の根源的な答えである。

 価格競争というのは、二つの勝者がいる。ひとつは“がむしゃら競争”の勝者である。人の2倍、3倍働いていいもの作るんだと、そういう哲学でやっている時には安く作ることができる。もう一つは資本力競争の勝者である。巨大な資本を元にして、販路を独占しながら、価格競争の主導権を持っていくやりかたである。逆の言い方をすれば、この二つしか勝者はいない。

 だが、価格競争は、結論的に言うと誰も幸せにしない。原材料の納入者を抑える、人件費を抑える、経営者は薄利の中で青色吐息で経営をしなければいけない。価格競争は大変だ。

歴史上、初めて市場主義に疑義を呈したシスモンディ


 シスモンディ(1773~1842年)はマルクスに影響を与えたスイスの歴史家・経済学者である。シスモンディは、はじめはアダム・スミスの自由主義学説の支持者であったが、イギリスの産業革命による弊害を目の当たりにして資本主義の矛盾を知り、恐慌理論を展開。恐慌を、消費を超える生産の過剰、いわゆる「過少消費」説で説明して、資本主義を批判した。「生産が増大するにつれて貧困が増大する」とシスモンディは言っている。普通は生産が増えれば貧困なんて増えない。しかし、グローバリゼーションを前提として生産を増大させていくと、貧困が増大する。「これによって大きな危機と社会的カオスが生じる」と説いた。

 まさに今の時代ではないか。アメリカもそうだし、EUもそうである。そして日本もその道に半分入っている。これは1830年代の言葉だが、実はこの時から、どうも物を大量に作る先には人間の幸せはないんじゃないかという考え方が起こっている。その考え方をまとめたのがマルクスである。

 マルクスは、共産主義のいわば開祖であるが、1840~50年に資本主義は限界を迎えると、さまざまな論陣を張って唱え続けてきた人である。グローバリゼーションは価格競争で、価格競争は人を幸せにしない。しかしそのグローバリゼーションを開いたのは、大量生産技術だった。もちろん大量生産すべてを悪だとは思わないし、大量生産があるからこそ、さまざまな豊かさを手にできていることは間違いない。

パート化、マニュアル化、コントロール化で大量生産


 この大量生産の技術というのは、経営の中で大量に作るための方法論を企業は見つけてきた。これをマス理論と言う。マスは“大量に”という意味で、大量生産をマスプロダクトと言う。マス理論は、例えばモノをつくる現場や経営を3つの考え方で進めてきた。それは、①パート化、②マニュアル化、③コントロール化だ。

 私の師匠である船井幸雄先生(1933~2014年)は、アンチマス理論と言われた。そして、船井先生と双璧と言われた渥美俊一(1926~2010年)という経営コンサルタントはマス理論を提唱した。1980年代後半から渥美先生のマス理論と船井先生のアンチマス理論が業界を二分していた。

 船井先生は、マス理論を徹底的に批判した。こんなもん人間を幸せにしない、と。パート化というのは、部分を完璧にこなせる人間をつくるということだ、全体なんか知らなくていい、目の前に流れてきたこの商品を完璧にネジを締めて横に流しなさい、ベルトコンベヤー理論ともいうが、パート化するわけだ。部分、細分化していき、全体像を教えない。

 マニュアル化、それはこういうことだ。お前は何も考えなくていい、ここに書いている通りにやりなさい。この通りやれば、おまえの創意工夫なんて活かさなくていい。ここに書かれていることを徹底的に守りなさい。

 コントロール化というのは、お前はこの人の指示に従って仕事をしなさい。他の人のことを考えなくていい。この人の言われたとおりにやりなさい。これがコントロール化である。

 パート化、マニュアル化、コントロール化、この3つがある意味では、近代資本主義、大量生産技術、マス理論の下支えになった考え方である。部分だけやりなさい。マニュアル通りやりなさい。この人の言うことだけ聞きなさい、上位下達である。

 実際、日本の経営にも、もちろん部分、部分を完璧に任せる、マニュアルを徹底的に守る、上位下達、上の人の言うことをしっかり聞き続ける、このことが経営の中核に存在する。

人間性中心主義――自己決定、全体善、自発


 しかし、人間というのはこれに対して、違う欲を持つわけだ。船井先生は“人間性中心主義”といった。人間性というのは、一つ目は“自己決定欲”である。自分でものごとを決めたい、自分が決めて、自分が好きなようにやってみたい、という欲望である。自己決定能力を失うことが、人間の尊厳を失うことだとも思う。

 二つ目、これは特に日本人が強いが、“全体善”を考えるということだ。俺の仕事は終わっちゃったけれども向こうの人はまだやっている、待ってるんじゃなくて助けてやりたい、自分がこれをやっているけれど向こうの方がたいへんそうだ、自分は早くこれを仕上げて向こうに行ってやりたい、これが全体善である。人間はこの全体善を上げるべく人間性を上げていく。人間性というのは、一言で言うと“協調性”のことである。協調性が表れるのが、全体善を考えるという人間の特性だ。この、全体善で動きたいという点で、日本人は強い。

 三つ目が“自発”である。良いと思うことをやりたい、良いと思ったら即行動したい、これが自発である。人間性をつくり上げるのは、「自己決定する」、判断力を身に着ける、「全体善を考える」、全体善はよりマクロの善という言い方をする、「自発をする」、良いと思ったことは即行動する、この三つのことを高めていくことによって人間性が高まっていく、こういう側面もある。

 人間としての尊厳を考えたときに、自分でものごとを決める、全体善を考えて行動しようとする、良いと思うことをしようとする、これらは人間しかできない。そこに人間としての尊厳がある。しかし、大量生産技術に支えられた近代資本主義は、極論を言うと、「この三つのことをせんでええよ」、という考え方で、パート化、マニュアル化、コントロール化するという方向で大量生産技術を定着させたのである。

【佐藤芳直(さとう・よしなお)】
S・Yワークス代表取締役。1958年宮城県仙台市生まれ。早稲田大学商学部卒業後、船井総合研究所に入社。以降、コンサルティングの第一線で活躍し、多くの一流企業を生み出した。2006年同社常務取締役を退任、株式会社S・Yワークスを創業。著書に『日本はこうして世界から信頼される国となった』『役割 なぜ、人は働くのか』(以上、プレジデント社)、『一流になりなさい。それには一流だと思い込むことだ。 舩井幸雄の60の言葉』(マガジンハウス)ほか。

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