日本企業に“マーケティング”と“ブランディング”は必要か?

強い企業を創ろうとすれば100年かかる

<文/佐藤芳直 連載第9回>

 私のコンサルティングの理念は“百年企業の創造”である。だが、最近、気づくことがあった。百年企業を創造するというよりも、強い企業を創ろうとすれば、あるいは未来永劫続いていく会社を創ろうとすれば、最低、100年くらいはかかるものだ、ということである。100年の年月をかけようと思わなければ、永遠に継続していく会社や、良い会社というのは創れないのではないだろうか。

 ところで、私は今まで30冊以上の本を書いてきたが、実はタイトルに“マーケティング”と名前の付いた本は2冊しかない。なぜ、マーケティングというタイトルの本をほとんど書いていないかというと、私はマーケティングという言葉があまり好きではないからだ。もちろん、経営コンサルティングをする中で、マーケティングはとても大事なことであるし、マーケティングという発想を抜きにしては、経営を考えることもできないと思う。

アメリカで生まれた“マーケティング”と“ブランディング”


 マーケティングはアメリカで生まれた概念である。「Market(市場)」が動名詞化された言葉であるところからも分かるように、“市場を開拓する”、“市場を作る”といった意味合いを含んでいる。分かりやすく言えば、いかに効果的、効率的、合理的にお客様の認知を高めていくか、ということである。産業革命によりイギリスは商品を大量生産し、国内はもとより世界中にある植民地に販売するようになった。しかし、海外に植民地を持たないアメリカは、大量生産した商品を国内で販売するため、いかに需要の創造を図るかを考えざるを得なかったのである。

 また、“ブランド”という言葉もアメリカでよく語られる言葉である。市場を作り、広げ、認知を高めるのがマーケティングであり、それらのイメージアップを行うのがブランディングである。

 ブランドには元々「焼き印を押す」という意味があったが、これから派生して「識別するためのしるし」という意味を持つようになった。実は、ブランドひしめくフランスやイタリアには“ブランド”という言葉はない。エルメス(創業1837年)、カルティエ(同1847年)、ルイ・ヴィトン(同1854年)、シャネル(同1909年)など世界的に有名なブランドを生んだフランスでは、〝la marque″(ラ・マルク)という。“商標”といった意味である。英語の「マーク(mark)」にあたる。同じくブルガリ(1884年)、グッチ(1921年)、サルヴァトーレ・フェラガモ(1927年)を生んだイタリア語では〝marca″という。

 歴史あるヨーロッパの国々と異なり、新興国アメリカは、いかに短い時間で合理的に、効率的に、強いブランドを創り上げるのかを考えてきた。そのための技術として「マーケティング」や「ブランディング」という言葉が生まれて、手法が発達してきたのである。

 時間を短縮することは、まさに近代資本主義の真骨頂でもある。特にインターネットの時代、あるいは、AIの時代である今を考えてみると、いかに時間を短縮し、自分たちのブランド価値を高めていくか、いかに時間というものを短縮しながら事業規模を大きくするか、そこに企業価値がある、と思われる時代を我々は生きている。

短い時間で作られたモノには短い時間分の価値しかない


 だが、逆に考えてみると、数百年の単位の中でさまざまな“ブランド”が生まれてきたヨーロッパの国々には、日々の“営み”を長年積み重ねていくことでしか強い企業を創ることはできないという共通認識、コモンセンスがあるのではないだろうか。日々を重ねて、確かな営みを続けることの中にのみ、ブランドは生まれてくる。日々の信用を積み重ねて、その日々の信用が、ある時、フッと信頼に変わっていく。まさにそれが日々の営みの本質であって、企業の強さ、ブランドの本体ではないのか。

 そして、短い時間で作られたもの、価値というものは短い時間分の価値しかないのではないかと、世界一の老舗大国日本にいて思うのである。日々の営みの積み重ね、つまりお客様の脳裏の中に、積み上げられて、積み上げられてきた記憶、しかも、自分の母の時代から、いや、おばあちゃんの時代から、ひいばあちゃんの時代からずっとこの商品、この商店とともに生きてきたという思いが、強いブランド価値を創っていくのは、間違いないことではないだろうか。

 その100年かけて創るべきものを、価値を、短縮的に2年、3年、5年、10年で創ろうとする。仮にこれがマーケティングだとすると、どうも性に合わない。なぜ、長い歴史を持っている日本が、短い歴史の中で時間を短縮してブランド創りをしているアメリカのマーケティング、ブランディングという技術に学ばなければいけないのか。だから、いくつもの出版社にマーケティングに関する本の企画を依頼されたが、あまり乗らなかった一番の理由はそこにあるかもしれない。

【佐藤芳直(さとう・よしなお)】
S・Yワークス代表取締役。1958年宮城県仙台市生まれ。早稲田大学商学部卒業後、船井総合研究所に入社。以降、コンサルティングの第一線で活躍し、多くの一流企業を生み出した。2006年同社常務取締役を退任、株式会社S・Yワークスを創業。著書に『日本はこうして世界から信頼される国となった』『役割 なぜ、人は働くのか』(以上、プレジデント社)、『一流になりなさい。それには一流だと思い込むことだ。 舩井幸雄の60の言葉』(マガジンハウス)ほか。

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