「イケてるアメリカ」報道にうんざりで笑いたい人用映画『ピザボーイ 史上最凶のご注文』
映画『ソーシャル・ネットワーク』で、フェイスブック創始者のマーク・ザッカーバーグ役を演じたジェシー・アイゼンバーグ主演のコメディ映画『ピザボーイ 史上最凶のご注文』が、12月3日(土)から全国公開される。
コメディあり、バイオレンスあり、少しばかりのエロあり、そして稀に見るバカバカしい展開の連続なのだが、この映画がアメリカ人の実態をよく表している点に注目したい。
最近、日本で報じられるアメリカといえば、NYを中心とした金融界のエリートと一部の大金持ちVSそこに対しデモをする所得の少ない人々といった構図はあるにせよ、ジョブズをはじめとしたシリコンバレーのIT企業と、ITにまつわる若き億万長者達のクリエイティビティを称賛する声が多い。そして、必ずこうくる。
「出る杭は打たれる日本では、ジョブズやザッカーバーグのような人物は生まれない。優秀な人はさっさと日本を脱出した方がいい」
そして、TPP参加表明を日本に「迫る」オバマ、普天間問題解決を「迫る」アメリカといった調子になっていることや、外資系投資銀行が日本株を空売りしてウハウハな現状を見るにつけ、日本人からすると「こりゃ敵わねぇよ」と意気消沈することだらけである。
だが、この映画に登場する登場人物たちは「ピザの配達でいつも時間に間に合わない男と中学でつまらない授業をする男」「のんべんだらりと親の庇護のもと過ごすデブとその子分」「大都市・アトランタでの仕事が決まり喜ぶ女と、その境遇をねたましく思う男」など大多数の「フツーの」アメリカ人。そんな彼らの実生活が描かれている(強盗とかはしないけど)。
そんな普通の人々が、現実ではありえないような大事件に巻き込まれていく様が描かれた同作だが、不思議と登場人物に不快感をもたらす人間がいない。これが作品全体を通す妙なゆるい空気に繋がっているのであろう。
主人公達の危機が延々続く映画は、観ていて「もうやめてー!」と横山弁護士のように言いたくなることが多いが、同作の危機はかなりの細切れ状態。「えっ、そりゃねぇよ! 逃げろ!」と思ったらすぐに逃げ切れてしまい、銀行強盗失敗か! と思わせたところであまりにあっさりとした逆転劇。この展開が実に心地よい。
胸がキューキュー痛むことなくバイオレンス・コメディ・エロ・アクション全部を楽しめ、さらには「アメリカ人だってオレらと同じじゃん…」と自信を持たせてくれる映画である。ちなみに私が最も気に行った登場人物は、デブの警官である。
※映画『ピザボーイ 史上最凶のご注文』2011年12月3日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
文/中川淳一郎(ビューティフル・社畜・ライフ・コンサルタント)
●『ピザボーイ 史上最凶のご注文』(
ハッシュタグ