永江 朗氏「小説が現実化するのはある意味、当然」

タイタニック沈没から和歌山ヒ素カレー事件まで
さまざまな事件を“予言”した小説たち


 古くはほぼ無名の作家、モーガン・ロバートソンが1898年に発表した『愚行』。客船が氷山に衝突して沈没する話ですが、その14年後にあのタイタニック事件が起こった。

 同じく海外小説では、トム・クランシーの『日米開戦』が、9・11同時多発テロを予言したとして話題になりましたね。旅客機を乗っ取り体当たりする手口が似てるんだけど、その危険性は前から懸念されていた。予言というより、ブッシュ政権の無警戒ぶりのほうが問題だったとも。

 日本の小説で有名なのは、大江健三郎氏の『洪水はわが魂に及び』で、執筆中にまるで小説の内容をなぞるように連合赤軍事件が明るみになった。もちろん、まったく架空の団体の話でしたが、現実と酷似していたため大江氏は大幅に書き直したと言われてます。小説家としては、現実に起こったことをそのまま書いてもつまらないですからね。

 新聞連載中に小説と似た猟奇殺人である酒鬼薔薇事件が起こったとして有名なのは村上龍氏の『イン ザ・ミソスープ』。村上作品では、ネット掲示板にのめりこみ犯罪に駆り立てられる青年を描いた『共生虫』発表後、2chに犯罪予告を記していた少年による西鉄バスジャック事件が起きたことでも話題になりました。

 ほかにも貴志祐介氏の保険金殺人をテーマにした『黒い家』が和歌山ヒ素カレー事件、橘玲氏の『マネーロンダリング』での脱税手法がライブドア事件を彷彿とさせると言われてます。ただ、小説は実際の社会背景やシチュエーションをベースに作っていくもの。そう考えると、小説が現実化するのはある意味、当然とも言えるかもしれませんね。

永江 朗
’58年生まれ。ライター。『不良のための読書術』『インタビュー術!』『批評の事情』『ベストセラーだけが本である』ほか著書多数

取材・文/石島律子 漆原直行 昌谷大介

― 続発する[フィクションの現実化]を大検証【12】 ―




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