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吉田沙保里まさかの敗戦に会場沈黙も、川井梨紗子の金の瞬間ブラジル人たちは大爆笑

―[リオ五輪]―
 レスリング女子53kg級で4大会連続の金メダルが有力とされていた、女王・吉田沙保里が負けた――。  今大会記者が観たなかで、かつてないほど日本人で埋め尽くされた、バーハ地区のカリオカアリーナ2は敗戦の瞬間、静寂に包まれた。 ⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1183204
オリンピックおじさん

御年90歳、オリンピックおじさんの姿も

 試合前は、なにか祝祭ムードに包まれていた。前53kg級の3位決定戦が始まっているのにもかかわらす、通路でおしゃべりする観客。誰もがこの日の”メインイベント”前にテンションが高かかった。
吉田選手が花道に現れると大歓声

吉田選手が花道に現れると大歓声

 例によって、チケットの安い席でブラジル人と観ていた記者。レスリング会場に来るブラジル人には「ヨシダ」の名前は有名、かつ発音がしやすいらしく、試合前から「ヨシダ!ヨシダ!」のコールが沸いていた。決勝の対戦相手のヘレン・マーリスがアメリカ人だったこともあり、彼女の名前がコールされると一斉にブーイング。アメリカの競泳選手4人が狂言強盗をやらかし、連日非難を浴びているからかもしれないが、それに負けじと「ヘレン!ヘレン!」と声援を送るアメリカ人。そんな彼ら応援団に対しても、足を床で踏み鳴らして”不満”を表すブラジル人たち。ただ、敵意むき出しというわけではなく、皆楽しそうに足を踏み鳴らし、なぜか爆笑している人もいた。
ジャポン!ジャポン!

ジャポン!ジャポン!とまるでホームのよう

 試合が始まってもテンションが高い観客たち。日の丸やハチマキ等グッズを手渡されたブラジル人は「ヨシダ!ヨシダ!」「ジャポン!ジャポン!」を繰り返す。日本から駆けつけた応援団の「ニッポン」コールと「ジャポン、ジャポン!」のコールが呼応して異様な雰囲気になっていった。  第1ピリオドに吉田が1ポイントを先制すると大歓声、しかし、相手のマーリスが守りの姿勢を見せ、吉田の攻撃をかわし逆転。しかし、それにめげることなく「ヨシダ!」の声がどんどん大きくなる。
吉田が敗れた……

吉田が敗れた……

 大きな声援むなしく試合終了……伊調や登坂選手のような、終了間際での逆転を信じて疑わなかった記者も絶句した。アメリカ応援団の歓喜の声がこだますも、一瞬静まり返った会場。  うずくまり号泣する吉田選手。泣きながらの場内一周に再び「ヨシダ!ヨシダ!」の大きな拍手。表彰式の時もずっと泣いていた吉田選手。表彰台に上がる選手のなかで、唯一負けた直後に上がるのが銀メダルの選手。満面の笑みの金、銅の選手たちとはあまりにも対照的だった。
吉田選手

もの凄い数の報道陣に囲まれる吉田選手

吉田沙保里

何度も何度も頭を下げているのが印象的だった

 会場で悲嘆にくれる日本人に、記者のまわりのブラジル人たちは「銀メダルおめでとう、すばらしい試合だった」と英語で声を掛けていたのが印象的だった。
吉田選手

ずっと涙が止まらない吉田選手

リオ五輪

この景色はどう見えていたのだろうか

会場の重たい雰囲気を変えたのは……

 悲劇のあと、会場はなんとも言えない腑抜けたような空気に陥った。記者もこのあと63kg級銅メダルマッチのあとに、川井梨紗子選手の金メダルマッチがあることを、ショックのあまり忘れていたほどだ。  しかし、川井選手が登場すると日本人応援団から再び大声援。「川井!川井!」という日本人の発音は「カーワイー!」と聞こえるらしく、どちらかというと「可愛い」と聞こえるようなブラジル人たちの発音が日本人には面白い。試合が始まると次々とポイントを重ねる川井選手に、会場は大熱狂。
栄コーチも歓喜

栄コーチも歓喜!

投げられた!

投げられた!このあと2回投げられ、爆笑の渦に

 そして見事勝利! その瞬間、派手なガッツポーズで川井選手にすかさず飛びつく、スキンヘッドの栄コーチ。その瞬間……投げられ見事にマットに叩きつけられる栄コーチ。過去に何度か見た、我々には「お約束」に思われたそのボケは、ブラジル人には衝撃的だったらしく、記者の周りの観客は大爆笑。「なんだあれ!」「マジ、スゲェ!」と称賛の声が相次いだ。
日本の伝統

これも吉田選手から続く日本の伝統

とにかく笑顔がはじけた

とにかく笑顔がはじけた

金の笑顔

金の笑顔

「どうして彼(コーチ)が投げられる必要があるんだ?」と聞かれたが、答えに窮した記者。「ニッポンでは勝利の儀式だ」とお茶を濁したことをお許しいただきたい。 金メダル取材・文・撮影/遠藤修哉(本誌)
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