更新日:2022年08月08日 03:14
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『あまちゃん』演出の吉田照幸監督「仕事で変わるためには、まず自分の短所を認めること」

――なかなか自分のやりたいことができない中で、仕事を辞めてしまう若者は多いと聞きます。吉田監督も同じ状況にあったそうですが、そこはどうやって乗り越えられたのですか? 吉田:本当に僕が、「サラリーマンNEO」や「あまちゃん」から変わってこられたのは、大きく間違っていることがあったからです。みんな「長所を伸ばせ」って言うんですが、これはまったくもって意味がない。長所はそもそも伸びた状態なんです。自分が耐えたり、変わったりすることで何が一番大事かというと、自分の短所を、本当に自分が認めることですね。僕は短所を認められるようになるまで、だいぶかかりました。  自分の短所を受け入れるということ。別にそれは変える必要もないです。まず自分が「こういう欠点がある」ということを思えば、人からそれを指摘されたときに、痛いけど、だからといって「違う」って否定はしないんですよ。そうすると、相手の言葉がやっと入ってくる。それで結果的に変わっていくんですよね。思考が「じゃあ、こうしてみようか」ってなると、言った相手から見れば「こいつ、いいやつだ」となるわけです。  そうすると、才能もないのに、短所を認めただけなのに、なぜか「あいつに、あれをやらせてみようか」ってなるんですよ、端から見ると。短所を認めただけなんですよ。でも自分が変わろうとしている人というのは、やっぱり勇気があると思われるわけです。だから最初は、絶対にそれを本当に認めることです。続けられないのは結局、自分のエゴが大きすぎるから。エゴっていうのは、自分がなりたいものですから、自分じゃないものに対してこだわっているわけですよ。それから脱却するのには瞑想ですね。僕は「あまちゃん」のときから始めました。 ――具体的に「瞑想」のやり方を聞かせてください。 吉田:夜に15分間、ずっと真っ暗な中で自分と向き合うんです。瞑想って何かっていうと、自分との会話なんですよ。「自分の人生の中で、本当に真っ暗な中で、自分の声を聞いたことがあるか?」って思うんですよね、みんな。真っ暗な中で目を瞑ったら、自分の中に埋もれている声がどんどん溢れてきますから。「自分は、そういうことを思っている」と思えば、言われた瞬間はイラッとしても、反応しないです。「あっ、俺は今、イラッとした」と思うだけです。全然違います。  やっぱり監督なので、何か意見を言われたりして、「あれは面白くないと思います」みたいなことを言われたら、やっぱりイラッとするわけですよ。前は「いや、それはさぁ……」って始めてたんですけど、今は言わないですからね。「どういうところが?」って聞くようになりましたね。 吉田照幸――映画でもドラマでも、現場で一番大切にしていることは何ですか? 吉田:リアリティですね。演技が本当に心から出たものかとか、この状況設定が、例えばじっと聞いているときに、本当に目を見るっていうことがリアルなのか、待っているときに何かしているほうがリアリティがあるのかっていうこととか、そういうことをすごく気にします。「こいつはケータイを見る人物なのか、見ないのか」とか。  結局、ドキュメンタリーが好きでやってきたんですけど、ドラマが面白いなって思うのは、虚構の世界なので、リアリティがないと面白くないんですよ。これは、ドキュメンタリーは逆でしたね。リアリティがあるようなことを追ってるんですけど、どこかで編集が入るので、本当のリアルじゃないんですよ。だからドキュメンタリーをやっている人のほうが作家性が強いと思います。僕がドラマが大好きなのは、初めにやりたかったこと、リアリティを実現できるので。それは、ドラマを作って初めてわかりました。それまで嘘をつくものだと思ってましたから。 <取材・文/北村篤裕 撮影/山川修一>
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