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果たして入れ墨は「医業」か? 判決に各方面から異論が噴出

 一方、当の医療従事者からも、地裁判決に対しては「ピントがズレすぎ」と批判の声が上がる。医師免許を持つ者が、職業倫理として彫り師などやれるはずがないというのだ。  六本木境クリニック院長の境隆博氏は、’98年から、火傷を負った患者に対して皮膚を削る治療法を多数実施。そこで培った技術をタトゥー除去手術に応用してきた。この分野の第一人者として、タトゥーに悩むさまざまな患者を診てきた彼は、彫り師の仕事は医師の治療とは相容れないと言う。 「タトゥーを入れた箇所の皮膚というのは、火傷の跡にそっくり。たとえ墨が入っている部分の外見が皮膚のように見えても、実際はガチガチの板のように固い傷跡になっているんです。除去手術をしたとしても数年がかりで絵柄が薄くなるだけで、赤黒く目立つ凸凹の皮膚が残ります。医学的な知識を学んだ者なら、タトゥーのような有害なものを人体に入れるなんて、恐ろしくてできない」  ただ、医者としてはタトゥーを100%否定する境氏だが、歴史的な文化を守るという側面からは、その価値を認めている。 「つまりタトゥーの問題は、不可逆なモノ同士がかち合っているんです。文化的価値や伝統は一度喪失すると二度と復活しない。健康な肌や体も同じで、タトゥーを彫る前の状態には戻りません」  今回の大阪地裁判決の意思決定に関わった厚労省、裁判官、検察官の中に、そうしたタトゥーが置かれている状況を正しく知る人間はいたのだろうか。 「確かにタトゥーから独特の威圧感を覚える日本人は多いですが、タトゥー好きの人たちの中で成り立ってきた伝統や文化に対しては、寛容な社会であってほしい。こういった個人と社会が衝突するテーマには、杓子定規な法律運用ではなく遠山裁きが必要なんですよ」  現状の法律に無理やり当てはめて彫り師の仕事を全否定するのではなく、衛生面や倫理面での条件をクリアした者に限って活動させるライセンス制度を導入すべきだと境氏は提言するのだ。 取材・文/野中ツトム・岡田光雄・鉾木雄哉(清談社) ※『週刊SPA!』10/31発売号の特集「[彫り師に有罪判決]でタトゥーはどうなる?」より
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週刊SPA!11/7・14合併号(10/31発売)

表紙の人/ 乃木坂46

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