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小説家兼ベンチャー企業役員・上田岳弘がたくらむ「価値基準を超えた小説」とは

本を読まない人たちに届くような仕組みを

――では実際に、このプロジェクトが「文学のためになる」と判断したポイントはどこにあるんでしょう。 上田:まずリーチ力ですね。月刊文芸誌の部数が約1万部と考えると、スマホのブラウザ上で『キュー』を読んでくれた人は、桁が違ってきていることがわかっています。それは、文芸誌に載せているだけではまったく届かないような層にも届けられるということ。たとえば、本文を読み進めることでジェネレーティブアートという、動く挿絵をSNSで共有できるシステムになっているのですが、それをシェアしてくれたアカウントを確認すると、これまで文芸誌に触れたことがないような人たちにも届いていることがわかる。いい意味で「誤配」が始まっているんです。 ――そうした誤配から具体的にどんなことを期待していますか。 上田:以前、文学とはまったく関係のないリクルート社の役員をしている友人に、試しに僕のデビュー作である『太陽』という小説を読んでもらったことがあるのですが、「なんかガルシア・マルケスみたい」って言われたのがすごく印象に残っていて。要するに、その人も学生の頃はマルケスみたいな小難しいものも一応読んでいたわけです。ところが就職して忙しくなって、次第にそういうものから遠ざかって自己啓発本みたいなものしか読む機会がなくなってしまった。小説を読まないと自認している人の半分は、実はこのタイプだと思うんです。そういう人たちが、まずは枠組みの新しさから再び文学に興味を向けるきっかけになれればいいなと思います。 ※このインタビューは11/14発売の週刊SPA!のインタビュー連載『エッジな人々』から一部抜粋したものです 【上田岳弘】 ’79年、兵庫県生まれ。’13年『太陽』で第45回新潮新人賞を受賞しデビュー。’15年『私の恋人』で第28回三島由紀夫賞を受賞。’16年、イギリスの老舗文芸誌『GRANTA』のBest of Young Japanese Novelistsに選出。著書に『太陽・惑星』『私の恋人』『異郷の友人』『塔と重力』 取材・文/茗荷谷ゆかり 撮影/尾藤能暢
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週刊SPA!11/21号(11/14発売)

表紙の人/ 中条あやみ

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