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夏野剛氏が提言。景気低迷の起爆剤は電子決済の普及である!

 世界に先駆けてモバイル端末による電子決済を導入した「おサイフケータイ」が登場したのが2004年。このとき日本は電子決済の先進国だったが、海外ではそれ以上のペースで日々の買い物のキャッシュレス化が進んでいる。たとえば中国の都市部では、ほとんど現金を使わずに生活できるような環境が整いつつある。

 日本でも「Airペイ」のように、電子決済を個人経営の店舗でも手軽に導入できるサービスが登場し、導入店舗数を伸ばしているが、まだまだ海外ほど普及しているとは言い難い。

 電子決済の普及の遅れは日本にどんな影響をもたらしているのか? そして、電子決済を導入すると、我々にはどんなメリットがあるのか?

 NTTドコモ在籍時、電子マネーや「おサイフケータイ」の開発を推進した当事者で、現在は慶應義塾大学・特別招聘教授を務め、ドワンゴの取締役でもある夏野剛氏に話を聞いた。


――夏野さんは以前から「電子決済の普及が日本の生産性を上げる」と発言されていますが、その理由は?

夏野:それは現金取引が非常に非効率だからです。これだけIT技術が進歩してきたにもかかわらず、日本は過去20年間で国全体の生産性がまったく上がっていません。具体的に言うと、1996年から2016年までの20年間、人口はほとんど変わってないのにGDPはわずか2%しか増えていないのです。こんな状況にあるのは世界の先進国で日本だけです。現金取引は日本の生産性の低さとともに世界でも珍しい現象だと言えます。

社会の生産性がテクノロジーの発展により上がらないのは、仕組みの問題なんですね。ビジネスの仕組みが悪すぎる。その最たるものが現金取引で、現金はいちいち数えなきゃいけないし、記録も残らないし、ミスや不正も発生しやすい。社会的に見ると、ものすごくコストがかかります。

日本では日々、約1億人が日に3回くらい何らかのかたちでお金を支払っています。この3億回の取引のすべてが電子決済になったら、ものすごく効率が良くなり、生産性は絶対に上がります。だから日本は電子決済国家にすべきだといろんなところで語っているんです。

――なぜ、日本では現金決済に比べて電子決済がいまいち普及しないのでしょう?

夏野:電子決済の最大のライバルは日銀券、つまり現金そのものです。なぜかと言うと、現金の発行コストは国が負担しています。だから、街の店舗で現金でいくら決済をしても手数料を支払う必要はない。

一方、電子決済に使われている手段は、ほとんどが民間のサービスなので手数料がかかります。より便利で、より正確性があり、より効率が良くなる決済手段のほうが、お店にとってコストが高いという変なことになっているのです。

電子決済を普及させる究極の一手とは?


――この状況を変えるような方法はあるのでしょうか?

私は、いろいろな場で政府にこんな提案をしています。消費税を10%に上げる際、電子決済だけすべて8%据え置きにする。そうすると電子決済にかかる手数料の負担がかなり軽くなるので、お店としても導入メリットがわかりやすいし、結果として消費者にとっても電子決済のほうが便利だと認識される。こうすれば、日本でも一気に電子決済が普及するでしょう。

――国として電子決済を後押しするということですね。

夏野:政府にとってもメリットがあるはずなんですよ。電子決済だと取引の記録が残るので、脱税が減ります。1997年に韓国経済が破綻して、IMFの統制下に入った際、クレジットカードに対する税制の優遇をやりました。これは脱税を防止するための措置だったのですが、見事に消費者のすべての取引の80%以上がクレジットカードになったそうです。政府の政策一つで国民の行動は変わります。


――しかし、そのためには街の飲食店のような小さな店にも、Airペイのような電子決済システムが導入されている必要があります。

夏野:まさに、そこに大きな障害があります。いわゆるチェーンじゃない、街の小さな飲食店のようなところでは、電子決済のシステムを導入するコストに対して、メリットを感じにくい現状があります。電子決済に対応しても、お客さんの数や売り上げが増えるわけじゃないだろう、という声が根強いわけです。

――やはり手数料がネックですか?

夏野:確かに以前は手数料の問題はありましたが、今は数%とかなり安くなってきているので、それだけで導入に否定的になっているわけではないでしょう。実はもっと根本的なところでは、レジそのものの問題があります。日本の飲食店で、「チェーン店でもないのにそんな機能いらないんじゃない?」と言いたくなるような高価なレジを導入しているところがけっこうあるのです。

――それはどうしてなのでしょう?

夏野:決済手段の効率化に対する関心が薄いからでしょう。飲食店を経営している方々は、どちらかといえば決済手段の効率化よりも、いかに美味しい料理や優れたサービスを提供するかということのほうに注力したがります。

それは確かにビジネスの主ではあるのですが、電子決済を導入したほうが売上管理も税の申告も簡単で、ものすごく業務が効率化できる。そうすることで、よりいっそう料理やサービスの質の向上に注力できるようになるんです。

これは飲食店だけではありません。一部のスーパーや量販店でも変なことが起こっていて、未だに現金決済だとポイントが付いて電子決済より安くなるとかやっているところがあります。電子決済をした際に他社に支払う手数料は目に見えるので、そこをカットすることが効率化だと考えているのでしょう。

しかし、ここには現金を取り扱うことによるハンドリングコストがまったく入っていません。現金決済がメインであれば、毎日レジのお金を数え、1円でも帳簿と合わなかったらみんなで残業して必死に1円を探すなんてことをやらないといけないわけです。

中には、レジのお金を従業員が抜いてしまうことを防止するため、レジカウンターの内側に向かって監視カメラを設置している店舗まであります。そんなバカげたことの積み重ねが、日本の生産性向上を妨げています。

こうしたお店に向けて、Airペイのような、あらゆる決済手段に対応し、なおかつ廉価なソリューションが出てくるというのは極めて強力です。ただ、電子決済を普及させるためには、単に「電子決済は便利ですよ」と言うだけでなく、いかに業務の効率化が街の小さな店にとっても重要であるとかということも啓蒙していく必要があると思っています。

――夏野さんが普段から電子決済の利便性を説いているのも、その啓蒙活動の一環というわけですね。

夏野:それで言うと、電子決済普及の最後の砦は……うちの奥さんですね(笑)

――どういうことですか?

夏野:これだけ私が電子決済で社会が便利になると言っているのに、もっとも身近にいるうちの奥さんが、日々の支払いのほとんどを現金でやっている(苦笑)。だから、うちの奥さんを啓蒙できたときが、日本の現金主義が終わるときだと思っています。

――ここまでうかがった夏野さんのお話はロジカルですし、電子決済のメリットもわかりやすいものでした。しかし、それでも奥様のように、電子マネーをなかなか使いたがらない人を動かすには、どうしたらいいのでしょう?

夏野:それこそ経済メリットしかない。つまり、先ほどお話した「消費税増税分を電子決済は控除する」というプランが一番効くと思っています。電子決済なら普段の買い物が2%安くなるとなれば、一気に広まるでしょう。

最新の統計では日本の電子マネーの取扱高は年間5兆円と出ていましたが、これをもっと政府として後押しすべきです。フィンテックよりも電子マネーですよ。社会的影響力もそちらのほうが大きいし、国の生産性は劇的に上がる。だから電子決済に経済メリットをつけるという施策を、政府にぜひ検討してもらいたいと本気で思っています。


●夏野剛
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘教授。NTTドコモ在籍時に「iモード」や「おサイフケータイ」など多くのサービスを立ち上げた。現在ドワンゴ、カドカワやGREEなど複数の企業の取締役を兼任している


※Airペイとは?

カードや電子マネーが使える決済サービス。Airペイはさまざまな決済をiPadまたはiPhoneとカードリーダー1台で決済できる。決済手数料は業界最安水準の3.24%(または3.74%)、かつ月額固定費、振込手数料は0円で店側の負担も少ない。現在は「0円スタートキャンペーン」を実施中



<取材・文/小山田裕哉 撮影/岡村隆広>

提供:株式会社リクルートライフスタイル
問い合わせ先:0120-39-4861

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