「たこやき」 が 「たこのフリッター」に!翻訳された日本の名作マンガたち
世界における日本のマンガやアニメの人気はご存じの通り。また、村上春樹に吉本ばなな、桐野夏生など日本の小説も各国で翻訳され人気を集めているとか。しかし、こうした”物語”の翻訳は単なる言葉の翻訳ではなく、いわば、文化の翻訳。生活習慣など”当たり前”が異なるのだから、当然、単純な間違いや勘違いによる誤訳もあれば、各国の事情に合わせて置き換えられたため珍訳が生まれたりもするわけで……。そんな誤訳&珍訳を集めてみた!
【マンガ】
女性が男性になったりやせ我慢がダイエットになったり!?
絵もついているし、マンガ翻訳は楽だろうと思うのは早計。「ほとんどが会話文から成り立つマンガで、そこから原文のニュアンスを汲み取り、自然な表現にするには高い日本語能力と文化に対する理解が必要」と、フランスで日本の漫画の翻訳、監修を手がける佐藤直幹氏は語る。
「例えばフランス版の大友克洋『童夢』では、女性霊媒師が『ムッシュー』、男として扱われています。パンプスを履いているのに、絵柄から男と判断してしまったのでしょう。また、『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』には、『この一ヶ月あまりの戦いでジオン公国と連邦軍は総人口の半分を死に至らしめた』という、お馴染みの口上があるのですが、その”総人口”が、フランス版1・2巻では”全兵士”となっていました」
そのほか、フランスでは小田ひで次『夢の空き地』内で「やせ我慢」が「ダイエット」に。花輪和一『刑務所の中』にある留置所の生活ならガンを宣告されていても治ってしまうというくだりが、本人がガン患者で刑務所暮らしによって治癒した話になっていたりするとか。単純なミスでも、意味を変えてしまうこともあり、「予算も含めて、作品世界をキチンと伝える”システム”が必要」(佐藤氏)。
一方、翻訳時に言い換えが必要なのがギャグ。国が変われば笑いのツボも違う。西原理恵子『毎日かあさん』1巻のわがまま放題で謝らない娘を「北朝鮮」とした部分が中国版では「とんずらのファン」に。日本人には「?」だが、中国人は大爆笑、なんだとか。
また、各国それぞれの事情もある。韓国の漫画コラムニスト宣政佑氏によると、『ベルセルク』4巻の主人公ガッツが男性に暴行されるシーンが、韓国版では意味不明なものになってしまったという。
「ガッツの『ウソだ』『ウソだ!』という心のつぶやきが、暴行しようとしている男の『背中』『背中を見せろ!』という台詞に変えられたのです。ちょうどこの頃、韓国ではマンガのエロ表現が社会問題となっていました。レイプ、しかも男色ですから、編集サイドとしては苦肉の策だったのでしょう」
その後、韓国では年齢によるレイティングができ、また、「訳注」で対応するようにもなって、翻訳における言い換えは減ったという。
アメリカではむしろ、この訳注が充実しているほうが喜ばれるとかで、そのためか、英語版の久米田康治『さよなら絶望先生』では、中央線がよく止まること、青木ヶ原樹海が自殺の名所であること、つのだ★ひろなどを巻末で解説。木尾士目『げんしけん』でも、”はりせん””空耳アワー”などが丁寧に説明されている。まあ、”はりせん”を訳すの、難しいだろうしね。
【中国】
『毎日かあさん』 西原理恵子 (毎日新聞社)
「北朝鮮」 ⇒ 「とんずらのファン」
中国版アマゾンでは、日本第一潮人漫画=日本で一番流行している人のマンガと紹介。決して謝らない娘を「北朝鮮」とブラックに表現したこの回は、連載する毎日新聞でも掲載が見送られた。中国語版では「北朝鮮」が「とんずらのファン」になっているが、「とんずらファン」とは、四川大地震で生徒を置き去りにして逃げたことをブログで告白し、「仕方ない」と開き直った先生のことで、「とんずらのファン」と呼ばれて大バッシング。なるほどの訳である
【フランス】
『孤独のグルメ』 原作・久住昌之 作画・谷口ジロー (扶桑社)
「たこやき」 ⇒ 「たこのフリッター」
緻密な画風の谷口ジローはフランスのマンガの伝統「バンド・デシネ」に通じるのか人気が高く、『孤独のグルメ』の仏版アマゾンのレビューでも「何度読み返しても、美味しいワインのように味わいつくしたということない」と大絶賛。野球場のカレーの「いかにもスタンドの味」を「スタンダードな味」と訳している部分もあったが丁寧に翻訳されているよう。ま、確かにたこ焼きはフリッターと言えなくもなく、福神漬けは辛い薬味だし
【台湾】
『クレヨンしんちゃん』 臼井儀人 (双葉社)
童謡『こいのぼり』 ⇒
お父さんお兄さん偉い 我が家の誇りだ
国のために出征し 喜んで軍人になり
行きなさい 行きなさい お父さんお兄さん
家の事を心配しないで
僕も大きくなったら (一緒に戦いに行きたい)
僕も大きくなったら (一緒に戦いに行きたい)
世界14か国で出版、30か国でアニメ化されている”クレしん”。9月の作者・臼井儀人さんの訃報は海外でも報道されるほどだった。18巻「ひまわりちゃんのハワイ・デビュー」の回では、しんちゃんがハワイ旅行に行き金髪女性に恋をする。日本版では「5才児の精いっぱいの恋のメロディ」として「こいのぼり」を歌うが、台湾版では「お父さんお兄さん偉い 我が家の誇りだ 国のために出征し 喜んで軍人になり~」といった愛国歌に。この歌、台湾の幼稚園児はみんな歌えるんだとか……
【アメリカ】
『さよなら絶望先生』 久米田康治 (講談社)
「桃色係長」 ⇒ 「”PINK BRANCH BOSS”」
「バーカうぜーんだよ変な柄のキモノきてんじゃねーよ」 ⇒
「HEY DUMBASS U TALK 2 MUCH & STOP WEARING THAT KIIMONO WITH THAT STUPID PATTERN」
絶望先生の本名が「糸色望」、ひきこもり少女の名が「小森霧」といったキャラの名前や、全編に渡る細かなローカルなネタは訳せるのか!? と期待していたが、すべて巻末の訳注でフォロー。さらに、携帯メールが若者っぽい表現になるなど細部へのこだわりは原本と同じ。桜の木で首吊りをしようとした先生を「桃色係長」と呼ぶくだりは”PINK BRANCH BOSS”。”BRANCH”は「係長」というより「支店長」の雰囲気とかで、桜の「枝」にかけたジョーク?
【香港】
『行け 稲中卓球部』 古谷実 (講談社)
「ノックや――横山ノックや――」 ⇒ 「地中海ハゲ――」
日本人ならば横山ノック(あるいは、波平)で通じる、てっぺんハゲ。当然、香港の人にはわかるはずもなく、ストレートに表現。てっぺんハゲを香港では「地中海」と表現するのだとか(これまた、ウマい!)。また別の巻では、酔っ払って全裸になる教師に対し、「超体育会系――!!」という投げかけるセリフがあるが、それは「無敵女教師――!!」に。そもそも”体育会系”という概念やノリが通じるのは日本だけらしい……
【アメリカ】
『げんしけん』 木尾士目 (講談社)
「ハリセン」 ⇒ 紙を巻いてつくる扇 どうやら大阪のものらしい<
オタクサークル「現代視覚研究会」に入った大学生の日常を描いた作品なだけに、巻末の解説も"Otaku""FF""fAN-Zines"などの言葉が並ぶ。ちなみに、アメリカ版アマゾンでレビューには、「エロ話で盛り上がるかゲームをするしかやる事がない、つまらないオタククラブにガキが入る話」と辛口評価も。ま、それがこのマンガのリアルさであり魅力なだけに、そう言われたら、身も蓋もないわけで……
【アメリカ】
『もやしもん1』 石川雅之(講談社)
「コレ ただの蛾やったやないか!」 ⇒ 「おもしろいこというね!おれは絹をつくる蛾なんてみたことねえぞ!」
菌の存在が見えるという特殊能力を持った主人公が農大に入る物語。作品に出てくる菌の名前は、例えば、「A.オリゼー」が「Thinks it can do just about anything」と、日本語版を直訳。上のコマは蚕を飼って絹をつむいで一儲けしようとするも失敗した先輩たちが罵り合うシーンでは、「コレ ただの蛾やったやないか!」が、「おれは絹をつくる蛾なんて見たことねえぞ!」とわかりやすく言葉を補って翻訳。アメリカ人も蚕が絹をつくることは知っているとのこと
― 日本の名作[海外珍訳・誤訳]コレクション【1】 ―
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