令和の瞬間はバイト先の真っ暗な休憩室で…。40代アルバイト男性の悲哀
駅を出て10分ほどで、高梨さんたちが働く倉庫に到着。ワンボックスカーからは、高梨さんを含めた4人の中年男性がぞろぞろ降り立ち、悪臭を放つ古めかしいトイレ横の事務室に入る。しかし、高梨さんらが入室した後も、部屋に明かりが灯る気配がない。
室内にはロッカーはおろか事務机一つなく、段ボールしか敷かれていない。非常灯の緑色の薄暗い部屋の中で、4人の男が作業着に着替えていた。
「派遣先業者の迷惑になるから電気をつけるなと指示されているんですよ。着替えをするスペースも更衣室と呼べる場所ではありません。こんな扱いにももう慣れました」(同上)
午後9時から作業が始まる。業務は大手運輸会社の荷捌きや、超有名アパレル通販会社の検品など、派遣先会社の事情により何度か変わってきたが、現在は大手通販会社の荷捌きがメイン。とはいえ、ゴールデンウィーク中の配送が中止されたり、物流量を制限するという運輸業界全体の「意向」が表明されていたこともあり、例年よりも捌く荷物自体は少ない。
昨年の三分の一程度だろうか。作業員たちは、すでに届けられていた荷物を、配達先ごとに仕切られたスペースに運んでいく。頭を使う必要はない。ただ淡々と、荷物に書かれた番号を読み、同じ番号が書かれた札の下がるスペースに持っていく。ラックに積み込む作業もあるが、箱の形状などを考慮しないと効率的に積めないため、高梨さんのようなベテランが行う。3時間が過ぎれば、待ちに待った“昼休憩”だ。
「休憩はこの真っ暗な事務室でとるんですよ。パンをかじり、紅茶を飲んで、段ボールの上に寝そべる。本も読めないから、みんな携帯ゲームやってます。携帯の充電は許されていないので、充電が切れると寝るしかない。平成の終わり、令和の瞬間もこの部屋で過ごしましたよ。隣で寝ていた、元ヤクザのおじさんに『令和になりましたね』っていうと、『そうか、早く帰って寝てえなあ』みたいな。なんの感動もなかったです」(同上)
この日も翌朝6時まで作業をこなした高梨さん。1100円の8時間分のバイト代が、帰り際にくだんの運転手から手渡しでもらえるが、高梨さんは派遣会社の寮に入居しているため、月の寮費(電気代・水道代込み)を一現場あたり1100円天引きされ、手元には7700円が残る。
駅までの送りの車中では、仲間たちとパチンコに行こうか居酒屋に行こうか、新時代を祝って早朝風俗にでもいくかなどと盛り上がるが、結局は寮に帰り、カップ酒で令和初めての飲酒を楽しんだのもつかの間、気がつかないうちに万年床のせんべい布団に突っ伏すように寝入ってしまったのだった。
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新聞、週刊誌、実話誌、テレビなどで経験を積んだ記者。社会問題やニュースの裏側などをネットメディアに寄稿する。
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