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地元ヤンキーの呪縛から今も抜け出せない…中年おっさんの憂鬱

成人式

あれから20年余り、30代の同窓会後に…

 しかし時が経てば、記憶は薄れるというもの。30代の終わりに、大規模な中学の同窓会を開こうと、有志が立ち上がったのである。嫌な思い出はあっても、青春を過ごしたかけがえのない仲間には変わりがない。  お互い大人になり、当時のことを笑って話せれば、それはそれでいいのではないか。そんな淡い期待を持って望んだおよそ20数年ぶりの同窓会に参加した。 「Xを含むヤンキー勢は全員参加。最初に会ったときはギョッとしましたが、酒を飲み交わすうちに『税理士か、立派だな』と言われ、すべてを許した気持ちになりました。携帯番号を交換し、フェイスブックでも繋がった。たまには地元もいいなあと思っていたのですが……」  懐かしさに浸っていた中井さんだったが、その思いは間もなく打ち砕かれる。Xから電話がかかってきたのだ。 「Xは地元で一人親方の工務店をやっていたのですが、税務関係の相談でした。本来なら有償業務ですが、頼まれて無料の“アドバイス”という形でやってあげたのです。すると、Xの仲間という人物からひっきりになしに相談の電話が来るようになり、挙げ句の果てには、脱税していたXの取引先業者から『告発されないために助けろ』などといった連絡まで入り……。断ると、Xから恫喝されたのです」 不良 中学卒業から20年余り経っていたが、Xは当時のXのままだったのだ。恫喝をどうにかやり過ごしたかと思うと、中井さんの元に連絡をよこしてきたのは、他ならぬ中井さんの母親だった。 「Xが実家に来て、母親の前で泣き崩れたそうです。私が地元の友達を無視している、と。母親は事情をわかっていましたが、泣き落としに入ったXが日参するものだからかなり参ってしまって。結局、相場からかけ離れた金額で仕事を請け負いましたが……」

「友達だろ」と犯罪の片棒を担がされることも…

 こうした地元の呪縛に絡まってしまったのは、中井さんだけではなかった。中井さんと同じように、地元が嫌で出たものの、ノスタルジーから同窓会に出てしまった警察関係者、マスコミ関係者、一流ゼネコン企業勤務者の元に、X周辺のヤンキーたちから、とんでもない内容の連絡が行くようになっていたのだ。 「警官の同級生には、仲間が駐禁切られて免停になる、どうにかごまかせというような電話がくる。マスコミ関係者には、ヤンキーたちが毎年仕切る地元の小さな祭りを取材しろという依頼が入る。ゼネコン勤務の友人の元には仕事を回せという無茶振りまで。断ると恫喝、泣き落としです。ゼネコンの友人は、会社にまで来られたといって頭を抱えていました。Xやその周辺は、いつまで経っても自分たちの言い分、無理が通ると思っている」  同じく神奈川では今年6月、窃盗や傷害罪などで実刑判決が確定していた小林誠容疑者が、仲間の家などを転々としながら逃亡するという事件も起きた。容疑者は昔の仲間などに「匿ってくれ」「金を貸してくれ」と電話をかけまくっていたが、断られると中井さんがやられたように恫喝してきたと報じられている。  ヤンキーは総じて「仲間意識」が高いとも言われているが、それがヤンキーの身勝手や自己都合によるものである場合も散見される。「友達だろ」と言われ、タダ働きさせられたり、犯罪に加担させられそうになってはたまったものではない。こうした「地元の呪縛」に、大人になってからも悩んでいる人は少なくないのではないか。<取材・文/山口準>
新聞、週刊誌、実話誌、テレビなどで経験を積んだ記者。社会問題やニュースの裏側などをネットメディアに寄稿する。
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