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鬼才・石井聰亙改め石井岳龍監督(『狂い咲きサンダーロード』『逆噴射家族』『五条霊戦記』)の10年ぶりの長編新作映画『生きてるものはいないのか』が好評公開中だ。病室を抜け出す娘、妹を探す怪しい男、都市伝説を語る学生たち、三角関係の学生と喫茶店員……ある大学のキャンパスで繰り広げられる“日常”に突然“最期の瞬間”が近づいてくる。次々と不明な死を遂げていくキャンパスの人々。何故突然死ななければならないのか。その理由は語られることなく、ただひたすら、誰にも必ず訪れる死というものの不条理さを淡々と描いた作品だ。
「与えられた最小の状態で最大の効果が上がった」と自負する石井監督と、「絶対、漫画家は劇場の大画面でこの作品を観たほうがいい」と新作の映画表現に圧倒された漫画家のよしもとよしとも(『青い車』)。ふたりの考える、表現活動における「リアリティ」とは何か、語ってもらった。
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「言葉の意味からこぼれおちるものこそを描きたい」(石井)
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「ラストシーンは頭じゃなくてぐわーっと体に入ってきた」(よしもと)
――よしもとさんは、ツイッターで「絶対漫画家はこの作品を観たほうがいい」とおっしゃっていましたが……。
よしもと: とにかくラストシーンに圧倒されたんですよ。会話劇のなかで日常が淡々と進んでいく中盤までは、頭で理解しようとしていた。でも、誰にも最期は訪れるんだということを台詞なしに圧倒的な映像で伝えようとするラストシーンは、頭じゃなくてぐわーっと体に入ってきたんです。映画でしかできないことだし、今までに観たことない表現だった。そういうものを観たら、作り手の人っていうのは絶対に刺激を受けるんじゃないかな。
石井: 中盤までの会話劇で「ずぶずぶの日常」を描いて、その対比としてのラストシーンなんですよね。意味のある会話なんてなくて、下らない会話しかしていないんですけど(笑)。でも、会話が意味を語ってしまったり、テーマを語ってしまったりするような作品は苦手なんです。だれるというか。言葉の意味からこぼれおちるものこそを描きたいという気持ちがあるので。よしもとさんの作品も、台詞は少ないですよね。
よしもと: 少なければ少ないほどいいと思ってるんです。台詞だけじゃなくて、絵に関しても同じですね。今、単行本作業を進めている『長嶋有漫画化計画』(小説家・長嶋有の原作をさまざまな漫画家が漫画化したアンソロジー)も、雑誌掲載時にはベタを塗ったりトーンを貼っていたところをあえて白くしたりしてます(笑)。描き込んだほうがリアルっていうわけではなくて、話の流れや心情の流れによっては、白いほうがリアルだってことに気が付いたんです。
石井: 絵はうまくなってるのに、描き込むわけではなくて空白を生かしているなと思いました。原作が小説だってことがわからないというか「まったくの漫画」でしたよね。原作があるからこそ、「漫画力」を発揮した作品だなと思いました。僕は今回、前田司郎さんの作品が原作なんですけど、だからこそ、映画でしかできない表現にこだわった作品に再構築してやろうという意地みたいなものもありました(笑)。
――突然、人が不条理な死を遂げていくという意味で、3・11の震災を意識されたりはしましたか?
石井: いや、それはまったくないんです。原作も震災以前に書かれたものだし、撮影も震災前に終わっていたので。描いていることは本当にシンプルなことで、みんな忘れて生きているけど、死は誰にでも訪れるということ。それを見つめ直すことからはじまっている作品なんです。
よしもと: 不条理なようでいて、わかりやすいシンプルな話ですよね。小学生が観てもわかる(笑)。自分が子供のときに『ウルトラセブン』の「第四惑星の悪夢」を観て衝撃を受けたみたいに、この映画を小学生に観てほしいと思いました。「何でこの人たち死んじゃうの?」って、理屈をつけて理解しようとする大人よりも、神話的、童話的に観てほしい作品というか。
石井: 映画を「観る」というより、「体験として感じてほしい」という気持ちはありますね。
よしもと: 小学生がこの映画を観たら、わけわかんないけどみんな死んじゃってコワい!ってトラウマになっちゃうと思うんです。でも、何かを作ろうっていうときに、自分の深くに横たわっているそういう体験って絶対に大事なんですよ。僕はどんなジャンルの作品でも、壁を壊してくれる作品というのが大好きなんです。ああ、映画にこんな表現の仕方もあったんだ! 漫画でこんな描き方ができるんだ!と、風穴を空けてくれる作品。
石井: 映画でしか描けないことを描きたい、いまの自分にしか描けないことを描きたい、それだけだったんですけどね。でも、それを突き詰めたら、与えられた最小の状態で、最大のリアリティを表現できたんじゃないかな、と思っています。
よしもと: ネタバレになっちゃうからあんまり言えないですけど、世界の『最期』を描いたこの映画のラストシーンって、めちゃめちゃ不自然なんですよね。現実には有り得ない光景。でも、リアルなんです。それは漫画も同じで、写実的に、丁寧に背景を描き込めばリアルになるわけじゃない。たとえば白い天井を描くとき、それだけじゃ空間を描けない。だから、天井線っていうんですけど、天井にマス目のような線を入れるんです。そうすることで、トーンを貼って細かく影をつけて描き込まなくても、空間を表現できるんですよ。
石井: 確かに、冗談みたいな不自然な“最期”ですよね。そうか、そのジャンルでしか描けないリアリティっていう意味では、天井に線を描くのと一緒ですね(笑)。
『生きてるものはいないのか』
鬼才・石井岳龍監督、10年ぶりの長編新作。ある大学病院に集まるさまざまな人々の「日常」が一転、突然謎の死を遂げていき……。11年/日本/1時間53分 配給/ファントム・フィルム 監督/石井岳龍 出演/染谷将太、高梨臨、高橋真唯、渋川清彦、村上淳ほか 渋谷ユーロスペースほかにて公開中
(C)DRAGON MOUNTAIN LLC.
『長嶋有漫画化計画』
よしもとよしとも、萩尾望都、小玉ユキら、さまざまな漫画家が長嶋有原作小説を漫画化していくプロジェクト。よしもと氏は長嶋有の『ぼくは落ち着きがない』のスピンオフ作品『噛みながら』を漫画化。作品を一冊にまとめた単行本『長嶋有漫画化計画』(光文社)は3月下旬発売予定。
http://www.n-yu.com/manga/ <取材・文/牧野早菜生 撮影/山田耕司>