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『孤独のグルメ』原作者・久住昌之のグルメエッセイ『途中めし』――知らなかった県・佐賀を知っていくフシギな途中

ドラマも好評放送中の『孤独のグルメ』の原作者である久住昌之がぐるなびで連載していたグルメエッセイ【途中めし】の特別編を大公開! 【ぐるなびの連載は】⇒コチラから読めます 2017年から定期的に佐賀県に通っている。 主な目的は、吉田焼きと有田焼きに絵付けをするためだ。 だけど、行き始めてから、自分が佐賀県についてあまりに無知、ということに気づいた。 ボクが日本で一番、その県のことを知らないのは、佐賀だった。 そのことにすら、気がついていなかった。 佐賀の風景は、どんなものか。なんにも思い浮かばない。 例えば、岩手だって、秋田だって、島根だって、その県の風景を描けと言われても描けない。でも漠然とは思い浮かべることはできる。大きな山が連なってるとか、どの海にどんな感じに面してるとか。湖があるとか、代表的な山とか。 だけど佐賀は、なーんにも、思い浮かばない。 海があるのはわかる。でも、佐賀がどこの海にどう接してるか、はたまたどう囲まれているか。皆目わからない。 砂浜はあるのか、リアス式海岸なのか。荒れてるのか。穏やかか。 半島のようなものはあるのか、湾はあるのか。島はあるのか。 山は、面積のどのぐらいの部分をしめるのか、それらは低いのか高いのか。いや、そもそも山はあるのか? 平野はあるのか? 大きな川は? 位置は、なんとなく長崎とか福岡のあたりという程度で、県境のない地図で「佐賀ここ」と指さすことはできない。県の形なんて、想像もつかない。 佐賀について、知ろうとしたことが、この歳になるまで、無いと思う。 佐賀と、5分間でもちゃんと向き合ったことがない。 佐賀で思いつくのは「佐賀のがばいばあちゃん」と、タレントのはなわ。だけ。 がばいばあちゃんは、読んでない。映画も見てない。 はなわは、ベースを弾いて歌うことと、髪の毛の真ん中を鉄塔のように立ててることだけ。 2013年に、初めて佐賀を歩いた。仕事で、有田近辺だけ。 その時、有田焼が佐賀県のものだと初めて知った。恥ずかしながら。 そして、佐賀は焼酎文化の九州では唯一、有名な日本酒が作られていることも知った。 だけど、佐賀への興味、そのあと全然続かない。 有田焼って佐賀県、日本酒も旨い、へー。プツン。はい佐賀おしまい。 佐賀県のみなさん、ごめんなさい。

初めて行った佐賀。料理のおいしさ。温泉。料理のすばらしさ。 そして吉田焼き!自分の無知蒙昧さに愕然、興味が湧いてきたゾっ!

それから4年後の2017年、音楽仲間に誘われ、仕事でなく、遊びで佐賀に行った。 車で案内してもらい、見たこともない奇怪な魚を食べた。 嬉野温泉に泊まり、その湯の気持ちよさと、温泉湯豆腐のおいしさを知った。 酒を飲んで佐賀の人たちと話し、翌日、吉田焼きの絵付けをさせてもらった。 あたりを散歩して、低い山々と田んぼと茶畑を見た。 おいしいお茶を飲んで、旨いおにぎりを食べた。 そして、初めて、己の、佐賀に対するあまりの無知蒙昧さに、愕然としたのだ。 東京に帰ってきてから、佐賀に対する興味がさらに湧いてきた。 絵付けされた陶器が焼きあがって、東京に届いたのを見た時は、今すぐにでも佐賀を再訪したくて、ムズムズした。 こうしてボクの佐賀通いが始まった。 佐賀に通っていると言うと、たいてい、 「なんで?」 と言われる。そのたび「ふふふ、しめしめ」と思う。 みんなノーマークだ。みんな、ボクと同じ佐賀無知だ。 毎年松茸の生える場所を発見した気分。 何度も行くと、通ってこそわかる知らなかった佐賀が、あとからあとから現れる。 これもみんな知らないだろう。あれも見たことないだろう。 とうとう、佐賀県紀行のエッセイ連載まで始めてしまった(来年単行本化の予定)。 陶器の絵付けも続けていて、個展で発表もした。少しずつ、絵付けや焼き物のことがわかってきた。 今は、肥前吉田焼の辻諭さんとコラボレーションで、ボクのオリジナル箸置きを作っている(これは先日完成、ライヴ会場などで販売している)。 自分は、こんなふうにして新しいことを始め、それを続け、結局仕事にすることが多い。 興味のなかったもの。そこにあるのに見向きもしなかったもの。ダサイと決めつけていたもの。もう古いと思って頭の隅に追いやっていたもの。 そこから、思ってもなかった自分の新しい世界が広がる。
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切り絵との出会いの思い出
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【今回紹介したお店】
佐賀 雑穀
03-3464-8416

営業時間:月~金17:00~24:00  土・祝日17:00~23:00
定休日:日曜日


小説 孤独のグルメ 望郷編

井之頭五郎が小説になって帰ってきた!!

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