『孤独のグルメ』原作者・久住昌之のグルメエッセイ『途中めし』――知らなかった県・佐賀を知っていくフシギな途中
「孤独のグルメ」誕生笑話。 なんだか成り行きで始まっちゃったんだよナ
話は変わるが、編集者男は、最近「小説 孤独のグルメ」を上梓した。 だから、この取材飲み会は、そのおめでとう会も兼ねていた。 彼は、1994年(これ何回調べても忘れる!)、25年前、ボクに「孤独のグルメ」の原作を書かせた編集者であり、連載時の担当編集者なのだ。 彼ともう一人の編集者が、 「今どきの、あの、嫌〜なグルメブームと、全然違う、もっと普通のうんちくとか、ミシュランとか出てこない食べ物マンガ、書いていただけませんか」 と言ってきた。 それから何度も何度も喫茶店や居酒屋で打ち合わせをして「孤独のグルメ」の骨格はできていった。 主人公を個人輸入雑貨商にしたのも、編集者男の知り合いに、実際そういう人がいたからだ。ボクは結局直接会うことはなかったけれど、女性だった。 彼女に、輸入雑貨商の仕事や日常を、箇条書きにして、ファックスで送ってもらった。 タイトルは考えないまま打ち合わせが進んでいき、いよいよ連載を始めるということになり、編集者男から電話があって、 「あの、あの例の、孤独なグルメもののマンガ、タイトル、なんてしましょうかね?」 と言う。 それでボクがその場で、 「そうねぇ、……そのまんま『孤独のグルメ』で、いいんじゃないの、ハハハ」 と言って、笑って決まったような気がする。 主人公の名前を「井之頭五郎」にしたのも、当時ボクが三鷹市井之頭五丁目に住んでいたから。 ほとんど何も考えていない。 でも、いいタイトルと名前だと、今は思っている。 連載が始まって、編集者男と一緒に取材に行った。 山谷に、浅草に、赤羽に、川崎に。 大阪の取材に行った日は、いろんな店に行って夜中まで飲んで、ホテルに帰って寝ていて、阪神大震災にあった。 その話は長くなるのでまた。 五郎が、実は格闘技ができる、というアイデアも、編集者二人からの要望だ。 編集者二人と、谷口さんとボクで、武道館に総合格闘技の試合を観に行った。 その帰りに飲んだのが、ボクと谷口さんが最初に酒を飲んだ時だ、と谷口さんから聞いた。 連載が始まって、谷口さんとボクが顔を合わせることは、しばらく無かった。 五郎が酒が飲めないのは、ボクのアイデア。 今回「小説 孤独のグルメ」を読み進めるうち、いろんなことを思い出してきた。 そして、確かにこれはマンガに書いた井之頭五郎の頭の中だ、と思った。 作者であるボクだけであろう、奇妙で不思議な感動があった。 いろんな音楽の引用が効果的だ。これは彼の編集者的センスかもしれない。 いちいちイイ歌を持ってくるなぁ、と思った。 音が聞こえ、五郎の世界が広がった。鯖の一夜干し(?)で「東一」の酒を舐める。 おいしいよ。幸せだ。
酒を「東一」に変え、鯖の一夜干しを頼んだ。 サバ、デカイのがドーンときてちょっと驚いたが、これがウマイ! つつけばつつくほどおいしくなる。サバの底力を知るような一品だった。 日本酒にも、ものすごく合う。 一緒に頼んだ自家製のぬか漬けも、佐賀とは関係ないが、おいしかった。 お新香がおいしい店は、信用できる。 なんて、まるで五郎のセリフのようだ。 しかし25年前に描いたマンガが、文庫になり、新装版が出て、18年後に2巻が出て、そうしているうちに世界10カ国で翻訳出版された。 CDドラマになり、テレビドラマになり、今年それがseason8だ。 ドラマのために、我らスクリーントーンズが作った曲は、数百曲にのぼる。 昨年はケータイアニメになった。 中国では演劇化され、今も全土を公演中の筈。全500公演と聞いて、気が遠くなった。 韓国ではオリジナルドラマが計画されていると聞く。 そして今度は、小説になったのだ。 どこまで広がり、いつまで残るんだろう? 「孤独のグルメ」という作品もまた、谷口ジロー先生亡き後も、まだ「途中」のようだ。 佐賀雑穀の夜は深まり、東一の酔いが3人の頭の中を、ゆっくりとろかしていく。 ●久住昌之(くすみ・まさゆき) 漫画家・音楽家。1958年東京都三鷹市出身。’81年、泉晴紀とのコンビ「泉昌之」として漫画誌『ガロ』デビュー。以後、旺盛な漫画執筆・原作、デザイナー、ミュージシャンとしての活動を続ける。主な作品に「かっこいいスキヤキ」(泉昌之名義)、「タキモトの世界」、「孤独のグルメ」(原作/画・谷口ジロー)「花のズボラ飯」他、著書多数。最新刊は『ニッポン線路つたい歩き』。【今回紹介したお店】
佐賀 雑穀
03-3464-8416
営業時間:月~金17:00~24:00 土・祝日17:00~23:00
定休日:日曜日
●第2巻の第1話を無料公開中
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