『孤独のグルメ』原作者・久住昌之のグルメエッセイ『途中めし』――知らなかった県・佐賀を知っていくフシギな途中
佐賀名物のエイリアンみたいな魚 「ワラスボ」って何だ!?
今回、そんな話を、いつもの編集者二人としたのは、渋谷の居酒屋「佐賀 雑穀」だ。 ここは、10年ほど前にはズバリ「佐賀」という店だった。 久しぶりに来たら、「雑穀」がついていた。どうやら店が変わったようだ。 でも佐賀料理を出している。 まずは、2017年に佐賀に遊びにいった時、初めて食べた、見たことも聞いたこともなかった、ワラスボの干物。 佐賀のその店では「スボ」と書いてあった。 店のおばちゃんに「スボってなんですか?」と聞いたら、 「えー、なんていったらいいか……」 と、言葉に困ったように笑うので「魚ですか」と言うと、 「魚……魚だろうけど……エイリアン?」 と言って、厨房に行き、調理前のスボの干物を見せてくれた。 驚いた。エイリアン、と言うのは抽象的な意味で、なんか普通と違う奇妙な宇宙人みたいな魚なんだろう、と思っていた。 そしたら来たのがこれだ。 あの、映画の「エイリアン」の宇宙人そのものではありませんか。 この長い頭と、口、牙。そして、目は無い。 驚いた。これが佐賀本体との、正式な第一次接近遭遇だった。 「佐賀 雑穀」では、この干物を炙って、マヨネーズをつけて食べる食べ方だった。頭は食べない。飾り。 ゴリゴリ硬い。ウルメイワシの丸干し的なのの、もっとハードなの。でも噛みしめるうちに、やはりウルメイワシっぽい味が出てきておいしい。ボクは好きだ。 佐賀で初めて食べたものは、油炒めにしてあった。もっと柔らかくて、頭まで食べることができた。 編集者男も、編集者女も、ワラスボを知らなかった。 最近佐賀では、面白がって、このワラスボのエキスが入った「エイリアンラーメン」が売られている。 インスタントラーメンなのだが、買ってきて作ったら、スープが緑色でビックリした。 味は普通においしいが、とにかくスープが藻が湧いたような深緑。 さらに清涼飲料「エイリアンエナジー」もある。味や色はコーラみたいで普通だが、瓶のラベルが強烈。 最近「エイリアンせんべい」も出たようだ。おかしい。 それから、エツの唐揚げ。有明海の、ごくある一部でしか採れない小魚。 これも佐賀のスボの店で初めて食べた。軽くて、おいしくて、ビールの共に止まらなくなった。 今思うと「スボ」と「エツ」の2品は、最高の「ツカミ」だった。 あの日佐賀牛のステーキを出されてたら、ボクはちっとも掴まれなかったと思う。 佐賀雑穀で食べたエツは、もう少し大きくて、身が厚かった。 佐賀で食べたものの方がおいしかったのは、仕方ないかもしれない。なにしろその店のすぐそばで採れるのだ。 ワラスボはともかく、エツの唐揚げは、自信を持って誰にでも勧めたい佐賀の一品。東京ではなかなか食べられないと思う。 ビールを酒に変える。佐賀には銘酒が多い。 「能古見」の純米を頼んだ。 アテに、コハダをもらう。酢じめ。 これがおいしかった。日本酒のアテに最高。 エッジが立ってて、キリリとしていて、もう見るからにおいしそう。 佐賀は、実はコハダの産地。築地に卸しているコハダの量は、佐賀が日本一だそうだ。 これも佐賀に5回目ぐらいに行った時、知った。そうなの?って。 佐賀の居酒屋でコハダを売りにしている店に、入ったことがない。 観光ガイドにも、全然取り上げられていない。 東京の寿司屋で「こちら佐賀の小肌です」というようなことは、一度たりとも聞いたことがない。 主に、佐賀の竹崎の港で水揚げされる。 竹崎に行って「どこでコハダ料理、食べられますか?」と聞いたら地元の女性たちが、顔を見合わせ、 「……無いね」 と言っていた。 竹崎では、コハダなんてもらうもので、買ったことなどないそうだ。 「小さくて骨が多くて、めんどくさいし」 と、笑っていた。 こういうところも、佐賀の面白さだ。【今回紹介したお店】
佐賀 雑穀
03-3464-8416
営業時間:月~金17:00~24:00 土・祝日17:00~23:00
定休日:日曜日
●第2巻の第1話を無料公開中
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