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ヤンキーはなぜ40代でも仲間の誕生日を祝うのか?「欠席はありえない」

現役世代にとっては「正直、疑問」

ユウキ(17)

 しかし、ここで「正直、まったく意味がわからないです」と申し訳なさそうに意を唱えたのは17歳のユウキ。醒めた口調で淡々と10代ヤンキーの誕生日観を説明する。 「友達の誕生日会なんて出たことないし、そもそも開かれてもいないんじゃないかな。誰かが誕生日を迎えたら、タバコを1カートン“ほらよ!”って渡しておしまい。なんで集まる必要があるんですか?」  はからずも露呈したヤンキーのジェネレーションギャップ。この意識の差は「誕生日会は居酒屋で開くそうですが、ヤンキーはどういう居酒屋が好きなんですか?」という記者の質問でさらに浮き彫りになった。「『笑笑』とか『白木屋』、居酒屋じゃないけど100円ワインがある『サイゼリヤ』もよく使ったな」と語る黒石世代に対し、若手陣のヒカル(19)は困惑しきった表情で答える。 「というか、そもそも居酒屋なんて行かないですよ。それだったら、友達のところで宅飲みしたり公園とかで飲めばいいだけじゃないですか。わざわざ外の店を使うメリットがわからないんですよね」  10代のうちから飲酒していいのかという問題はこの際、置いておこう。若者の居酒屋離れが叫ばれて久しいが、その波は確実にヤンキー層にも伝播しているのだ。さらに近年はタバコを吸わないヤンキーも急増しているのだという。喫煙歴8年のコウジ(21)が語る。 「自分はセッター(セブンスター)派なんですけど、吸わない奴は確実に増えていますね。仲間の間だと、今はむしろ非喫煙者のほうが多いかもしれない。それからIQOSとかの電子タバコも、新しもの好きの奴が愛用しています」  ヤンキーなのにタバコを吸わないなんて……! 口をあんぐりさせながら驚く黒石氏は、「俺らの頃は確実に喫煙率100%だった」と述懐する。そしてユウキが畳みかけるように若者のタバコ事情にまつわる豆知識を披露した。 「今はメビウスのタール10mgを『メビテン』と呼ぶんです。だけど8mgのやつは『マイパチ』なんですよね。これはメビウスをマイルドセブンと呼んでいた頃の名残なんだけど、気をつけなくちゃいけないポイント」

LINEマナーはヤンキー社会でも…

 生活するうえで何一つ必要ない知識が蓄積されていくこの感覚……聞いていてゾクゾクするばかりである。それにしても新世代のヤンキーが居酒屋やタバコを敬遠する理由として、持ち金をスマホ代に吸い取られているのは間違いないはず。では、「今どきのヤンキーが愛用するスマホのアプリ」とは何か? 「LINE、Instagram、Twitter……この3つは絶対に必要じゃないですか。Facebook? そんなの使ってる奴いませんよ。使い方もわからないし。インスタはストーリー機能を使っています。一定時間経ったら消えるってところが気軽でいいんですよ。友達とカラオケ行った様子とか、食ったメシとか、どうでもいいことばかりアップしていますけどね」  ヒカルの説明に黒石氏が疑問を挟む。 「俺たちの頃は、先輩からの電話に3コール以内に出ないとヤキを入れられたんだよね。でも、今は連絡手段のメインが電話じゃなくてLINEでしょ? そのへんはどうなっているの?」 「既読マークをつけると、『なんで読んだのに返事よこさねぇんだよ!』と怒られるんです。かといって既読マークをつけないと、『なんで読まねぇんだよ!』と怒られる。だから、そのへんは難しいんですよ。空気を読むしかないというか。逆に自分が送ったメッセージに返事がないとブチ切れますけどね。『スタ爆』ってわかりますか? 嫌がらせで何十個も連続でスタンプを送りつけるんです。やられると、すげぇゲンナリするんですよね」  すでに不良の道から足を洗って何年も経つ黒石氏。その間にヤンキー文化は根底から変わってしまったようだ。その変化を肯定的に受け止めつつも、どこか寂しそうな表情も見せるのであった。〈取材・文/小野田 衛 撮影/丸山剛史〉
出版社勤務を経て、フリーのライター/編集者に。エンタメ誌、週刊誌、女性誌、各種Web媒体などで執筆をおこなう。芸能を中心に、貧困や社会問題などの取材も得意としている。著書に『韓流エンタメ日本侵攻戦略』(扶桑社新書)、『アイドルに捧げた青春 アップアップガールズ(仮)の真実』(竹書房)。
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