仕事

42歳日雇い男のホームレス生活「飲食イベントの残り物を食べていた」

僕には帰る場所がない…野宿スポットを探す

夜景 そして僕が向かった先はイベント会場ではなくコンビニである。忘れ物をしたというのは嘘だった。僕にはもうネットカフェに泊まるお金も残っていなかった。駅から電車に乗ったところでどこにも帰る場所なんてなかったのである。とりあえず、派遣先の担当者にサインをもらったタイムシートをコンビニのファックスで派遣会社に送る。日雇いとはいえ、即日給料がもらえるわけではなく、タイムシートをおくってから3営業日後に給料が振り込まれることになっていた。  次に銭湯に向かった。真夏日だったのでその日一日の汗を流したかったし、ホームレスであることがバレないように身なりだけはきれいにしておきたかった。入浴料金の470円くらいはまだなんとか残っていた。のぼせそうになるほどゆっくりと湯船に浸かり、ひげも剃ってから銭湯を出た。  それから野宿できそうなスポットを探した。東京の美しい夜景の一端を形成する高層ビル群を遠くに眺めながら、人通りの少ないうら寂しい道を歩いた。東京湾に面した広場に植木の植えられた段々畑のような石段があり、そこで寝ることができそうだった。  いちばん下の石段の陰でバスタオルを体にかけ、リュックを枕にして横になる。蚊のプーンと不快な音が耳元に近づいてくる。刺されないように体を小さく丸めてバスタオルで全身をスッポリと覆った。やがて蚊の音は遠ざかり、ぴちゃぴちゃと水の音だけが聞こえるようになる。  息苦しくなってバスタオルから顔だけ出した。目の前に設置された白いフェンスの向こう側に東京湾が広がっている。その真っ暗な水面に遠くの湾岸から放たれる光が微かに映し込まれてちらちらと揺らいでいた。<文/小林ていじ>
バイオレンスものや歴史ものの小説を書いてます。詳しくはTwitterのアカウント@kobayashiteijiで。趣味でYouTuberもやってます。YouTubeチャンネル「ていじの世界散歩」。100均グッズ研究家。
1
2
3
おすすめ記事