在宅勤務で「仕事がはかどらない」と子どもを預けにくる親
一方、保育園に連れて行く親に対しても厳しい目が向けられることもある。
「登園する途中で、通りすがりのおじいさんから『
こんな状況のなかで保育園なんか連れて行くのか』って、ボソッと言われたことがあります」
IT関係の仕事に就く濱田康祐さん(仮名・30代)は、3月後半から在宅勤務が中心となった。濱田さんは子をもつ親だが、なかなか業務がはかどらないという。
「うちは共働きですが、お互いにいまはリモートワークです。アパートに住んでおり、書斎や仕事部屋があるわけではないので、私も妻もリビングのテーブルで作業しています。しかし、子どもたちが近寄ってきてしまうので……。
午後になって子どもが昼寝してからでないと、まともに集中できないですね。あとは夜中か。体力、精神面でもキツいですが、仕事の進行スケジュールにもかなり影響が出ています」(濱田さん)
共働きが当たり前となった現在。濱田さんのようなケースは少なくないはずだ。
横浜市の認可保育園に勤める会田えりさん(仮名・30代)によれば、外出自粛が呼びかけられて以降も「在宅勤務がはかどらない」「在宅勤務だけど、子どもに退屈させてしまうから」と保育園に子どもを預けにくる親が絶えないという。
「私の保育園には、緊急事態宣言が出たあとも約半数の子どもが登園しています。本音を言えば、
仕事がしたいからって在宅勤務の人は預けないでほしい。その結果、外出自粛のなか私たちも出勤せざるをえなくなっている。仕事と子どもの命、どちらが大事なのか。数週間ぐらい夫婦で協力してなんとかならないものなのでしょうか。とはいえ、いちばんの問題は政府や自治体の中途半端な対応だと思いますが……」(会田さん)
会田さんと似たような思いをもつ保育士は少なくない。神奈川県川崎市の認可保育園で働く山川春美さん(仮名・30代)は「こんな状況のなか、むしろ開園してほしいという保護者も多いんです」と困惑気味だ。
「川崎市は登園自粛の要請が出たのが他の自治体よりも遅く、9日21時過ぎだった。それも『感染の予防に留意した上で、原則開所とします』とのことだったので、市の決定を無視して休園することはできません。現在も子どもを預けにくる保護者は少なくありませんが、在宅勤務となっていても『子どもがいると仕事にならない』ということで預けにくる人ばかりです。また、
都内勤務の方で勤め先のビル内で感染者が出たという人もいます。感染のリスクを伝えても『仕事が休めない』というのですが……正直、不安ですね」(山川さん、以下同)
そのなかには「保育園が休園になったら仕事が休める」という保護者もいるようだが、川崎市からの通知があくまで自粛要請のため、休むことができないのだとか。
緊急事態宣言以後も自治体の方針が中途半端であることから、思わぬ弊害も出ているという。
「登園する子どもの数自体は減っていますが、出席人数が当日まで読めなくなっている。給食の発注は大幅には減らせないため、結果的に休みが多かった日は無駄なロスが増えてしまいます。また、国の基準で子どもの年齢、人数によって保育士の数が決まっているため、職員の勤務を大幅には減らせません。必要保育士数を割らないようにしながら、電車通勤している職員の感染リスクを減らすことも考えて調整していると……いまちょうど、4月後半のシフトを組み直すはめになっていますね……」
保育士たちは今、政府や自治体、企業や保護者など、それぞれの思惑の間で板挟みとなり、完全に疲弊している状態だ。いま本当にいちばん大切なことは何なのか。ひとり一人が考えなければならない時期だろう。<取材・文/日刊SPA!取材班>