チンピラ社員からゲキが飛ぶ、ゴミ分別の日雇い派遣で悟った小さな恋
これまでで最悪の現場に当たる
その日も駅前の待ち合わせ場所に千里の姿はなかった。いたのは、彫りの深い顔立ちをした国籍不明の青年と枯れ枝のように痩せ細ったおそらく70過ぎのおじいさんだけである。彼らといっしょにバスに乗り込んで現場に向かった。
そこはこれまでに入った現場の中で最悪のところだった。仕事内容はゴミの仕分けである。厚手のゴム手袋をはめ、ベルトコンベアで流れてくる大量のゴミを可燃物、プラスチック、金属などに分別していく。社員に交じってその作業を行ったのだが、その社員がチンピラのようにガラの悪い連中ばかりだったのである。
「もっとテキパキと手を動かせや、コラ!」
そんな恫喝のような声が仕事中に何度も飛ばされた。僕は手に掴んだ金属の破片をチンピラ社員の顔面に投げつけたくなる衝動を抑えながらゴミを分別した。
ベルトコンベアの反対側には同じ派遣のおじいさんがいた。彼は悟りを開いているのか、それとも感情を失っているのか、チンピラ社員の恫喝もどこ吹く風と受け流してただ黙々と作業を続けていた。
そして地獄のような時間がやっと終了した。僕はタイムシートにサインをもらうと、足早に帰ろうとする。そこへ後ろから声をかけられた。
「いっしょに帰りませんか」
振り返ると、そこにいたのはいっしょに働いたおじいさんだった。
ちょっと面倒だな……と思ったのだが、断る理由もなかった。いっしょに駅に向かうバスに乗り込んだ。席はすべて埋まっていたが、席に座っていた青年が立ち上がっておじいさんに言う。
「どうぞ座ってください」
「そうですか。それじゃあ、お言葉に甘えて」
おじいさんは遠慮がちに席に腰を下ろした。彼は席を譲られて当然の年齢である。そして年金で悠々自適の生活をしていてもいい年齢でもあるはずなのに……。
僕は彼の隣に立ってたわいのない世間話をした。いちばん気になったことは口に出さずに胸の内にしまうことにした。
「それにしても、今日の現場、本当に最悪でしたね」
「そうだね。社員がちょっとひどかったよね」
「男ばかりだったし。こんな現場に女の子なんて来るわけないですよね」
「ああ、来るわけないよ。来たとしてもすぐに逃げ出しちゃうよ」
おじいさんはそう言って口の端に微かな笑みを浮かべる。その弱々しい笑みがどことなく悲しかった。千里を追うのはもうやめようと思った。恋愛はもう諦めてもいい。だから、せめて……。僕は祈るような気持ちで窓外の夕闇をじっと見つめた。<文/小林ていじ>
―[42歳日雇い派遣男のリアル]―
バイオレンスものや歴史ものの小説を書いてます。詳しくはTwitterのアカウント@kobayashiteijiで。趣味でYouTuberもやってます。YouTubeチャンネル「ていじの世界散歩」。100均グッズ研究家。 1
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