仕事

マスクを買い占めたバイト仲間…コンビニ店員の僕が見た裏側

 新型コロナウイルスの被害がさまざまな業界に及んでいる。僕は日雇い派遣の他にコンビニのバイトもしていた。そこでも新型コロナウイルスの影響は大きく被っていた。
小林ていじ

現在42歳、日雇い派遣の仕事などで生活する筆者・小林ていじ(撮影/藤井厚年)

 もともとはコンビニ専門のバイトアプリを利用していた。人手の足りない店舗が1日だけのバイトの求人情報を掲載をしている。そこに応募して何度か同じ店舗で働くと、アプリを通さずに直接店長から呼ばれるようになった。  その店は都内のオフィス街に位置していた。そのため、昼時になると会社員が昼食を買いに殺到し、3台あるレジすべてに長い行列ができた。レジを打ちながら弁当をレンジで温め、同時にコーヒーやカフェラテの注文を暗記して作っていく。たかがコンビニのレジ打ちなれど、いつも泣き出したくなるほどの忙しさだった。  しかし、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、外出自粛が要請されるようになってからはそんな店の様相もガラリと変わった。客足はみるみる遠のいていき、昼時にも関わらず店内に客がゼロなんてこともざらに起こるようになった。僕はその後も仕事には呼ばれていたのだが、勤務時間は1日8時間から5~6時間ほどに短縮された。  マスクはずっと品薄の状態が続いていた。週3回深夜に入荷されるのだが、その数はいつも約10点ほどだけ。そのため、「ひとり1点まで」と制限していた。が、それでも訪れる客のほとんどすべてが購入していくため、いつも朝を迎える前に売り切れていた。

すべてのマスクを買い占める中国人留学生

マスク

ドラッグストアやコンビニでは、マスクの品薄状態が続いている

 そんなある日、中国人留学生の陳君(仮名)と2人で夜勤に入った。彼はまだ日本に来たばかりなので、仕事だけでなく、同時に日本語も教えなくてはならなかった。 「レシートはいいです。どういう意味ですか?」 「いいですはグッドだけじゃなくてけっこうですという意味もある」 「わかりません」 「いらないってことだよ」  午前3時頃に納品が来ると、2人で品出しをした。その日もマスクは約10点ほど入荷されていた。陳君はそれを見つけて僕に訊いてきた。 「このマスク買ってもいいですか?」 「いいよ。1点だけね」 「ぜんぶ買ってもいいですか?」 「それはダメに決まってるじゃん。ひとり1点までというルールなんだから」 「店長はぜんぶ買っていいと言いました」 「嘘でしょ?」 「本当です」 「どうしてそんなに必要なの?」 「武漢の友達に送ります」  僕はそれを聞いて、陳君はなんて友達思いの優しい奴なのだろう……とはまったく思わなかった。怒りしか沸いてこなかった。今は武漢よりも日本での感染拡大を食い止めるほうが重要な局面に来ているのだ。それ以前に、コンビニの店員という立場を利用して「ひとり1点まで」というルールを平気で破ろうとしているのが許せなかった。 「本当に? 本当に店長はぜんぶ買っていいと言ったの?」 「はい、本当に言いました」 「店長がいいと言ってるのなら……、買えばいいじゃん」  しかし、僕は陳君を睨みながらそう答えるしかなかった。店長が許可している以上、僕にはダメだと言える権限がないのが歯がゆかった。それから少しして常連の女性客がやってきて僕に訊いた。 「マスク来てますか?」  僕は彼女にマスクが何曜日の何時頃に入荷されるか教えたことがあり、そのタイミングで来たのである。 「ごめんなさい。今日はもう売り切れで……」 「え、もう?」 「はい、すみません」 「そうですか……」  彼女は肩を落として店を出ていった。僕は平然とした顔で品出しをしている陳君をもう一度強く睨みつけた。あとからわかったことなのだが、店長は陳君にマスクの購入を1点しか許可していなかった。陳君が嘘をついたのか、それとも、店長ときちんと意思疎通を取れていなかったのか。今さら追及したところでなんにもならないのだが……。
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トイレットペーパーとティッシュも品薄に
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