更新日:2020年08月02日 08:39
エンタメ

オーディション番組が乱立する韓国、モデルは日本の『ASAYAN』だった

韓国の地上波3局に共通した焦り…

 韓国には地上波が3局ある。KBS、MBC、SBSだ。厳密に言えば教育テレビのEBSも存在するが、ここでは割愛させていただこう。この3局は営利目的で運営される日本の地上波とは若干意を異にしている。まずKBSはNHKのような完全なる国営放送局。MBCも国が費用の大半を持つようなかたちで設立され、80年代の全斗煥政権下では準国営化されたという経緯がある。3局の中で最後に作られたSBSは民営企業ではあるのだが、SBSのSはソウルの略であって地方に系列局を持っていない。つまりキー局と言い切れない部分があるのだ。  一方、韓国にもケーブルテレビは存在する。ケーブルテレビは専門性が高いチャンネルが多く、放送内容も映画チャンネルだったら過去の映画作品を流したり、音楽チャンネルだったらMVを流したり新曲のタイミングでアーティストにインタビューすることが多い。「このへんは日本とあまり変わらないんじゃないですかね。スペースシャワーTVや東映チャンネルみたいなイメージです」とはピョ・ジェシク氏の弁。 「ところが2011年12月に新しい放送局が4つ新設されることになりました。これらは『総合編成チャンネル』と呼ばれるもの。メディア法という法律が国会を通過し、それまでは3つの地上波と専門性が高いケーブルテレビしかなかった韓国のテレビ業界に、まったく新しい風が入ることになったんです。そして総合編成チャンネルには中央日報や朝鮮日報などの新聞社がバックについていた。  ケーブルのテレビ局も、本音ではなれるものなら地上波になりたかったんです。たとえばMnet。あそこは親会社が超大手財閥のCJグループだし、そのCJグループはサムソンとも兄弟みたいな関係。なにせサムソングループ創業者の長男がCJグループの名誉会長でしたから。そういうこともあって、資金は潤沢なんです。だけど、韓国の法律では財閥企業は放送局を持てないことになっているんですよ。メディアを使って自社グループの商品を宣伝するとなれば、影響力が大きくなりすぎますしね。実はそれまで新聞社も民放局は持てなかったんだけど、これができるようになったのがメディア法だった」(同)

カネの力にモノを言わせたCJグループ

 総合編成チャンネルの設立は韓国メディアに業界地図を塗り替えるような“事件”だった。なぜか? 韓国の地上波放送は番組の途中でCMを挟み込むことができない。番組の前後にしかCMを入れられない。しかし、総合編成チャンネルでは日本のように途中でガンガンCMを入れることができるという話だった。そうなると当然、広告収入は既存の地上波3局とはケタ違いになると見られていた。実際に放送が始まってみると、期待されたほどの効果は挙げられなかったのだが……。 「いずれにせよ、ケーブルのテレビ局からすると総合編成チャンネル4社が作られることは大いなる脅威だった。そこで自分たちもオリジナルの番組を作らなくてはいけないと考えるようになったんですね。実際に総合編成チャンネルができたのは2011年末でしたが、メディア法が国会に提出されたのは2008年。その焦りが『スーパースターK』を生んだという言い方もできると思います。  それでCJグループが具体的にどうやってオリジナル番組を作ったかというと、カネの力にモノを言わせて地上波から有能なスタッフやプロデューサーを引き抜いた。韓国では実力のあるプロデューサーは『スター』と呼ばれているんですけど、たとえスターであってもKBSやMBCでは給料制。CJグループに来れば完全成果制だし、給料のベースももちろん上げていく……このように口説いたんですね。もうなりふり構っていられなかった」(同)  再編の波が吹き荒れる当時の韓国メディア界にあって、『スーパースターK』の人気沸騰はさらなる混乱を呼ぶ劇薬となった。次回、あまりにも生々しいその舞台裏に肉薄する。
出版社勤務を経て、フリーのライター/編集者に。エンタメ誌、週刊誌、女性誌、各種Web媒体などで執筆をおこなう。芸能を中心に、貧困や社会問題などの取材も得意としている。著書に『韓流エンタメ日本侵攻戦略』(扶桑社新書)、『アイドルに捧げた青春 アップアップガールズ(仮)の真実』(竹書房)。
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