ライフ

日本の山岳民・信州人はなぜ自宅や職場の“標高”を語るのか?

県民みんなが登山が好きなわけではない

 二つ目が学校登山の存在だ
槍ヶ岳登山学校

学校単位やスポーツ用品メーカー主催の登山学校も実施。こちらは槍ヶ岳

 この地では全校登山、学校登山といった名称で、小中学校時代に近隣の山を登る行事がよく行われる。身近に山があるからこそ、方言の「ずく(根性、労を惜しまず働くなどの意味)」を鍛え、自然の怖さをも体感する場となっている。  近年、子どもたちへの負荷、山の事故に対する懸念からよりマイルドなトレッキングに移行する傾向も見られるが、上級者になると3000m級の登山にチャレンジした経験を持つ人も。  そこから山に魅せられた人もいれば、逆に「もう登山はこりごり(見るだけで十分)」という地元っ子も意外にいる。山が多いからといって県民みんなが登山好きなわけではない。

鉄マニアに人気の“天空に一番近い列車”も!

 三つ目として「日本一高い〇〇」が多くあることだ。  まず、県を統括する県庁所在地では、長野県庁が371.3mで日本一。ちなみに最下位の47位は神奈川で2.4m。155倍もの差がある。  鉄分多めのマニアに人気なのは、JR標高最高地点1375mおよびJR駅最高標高地点野辺山駅(1345,67m)を通過するJR小海線。“天空にいちばん近い列車”として星空や宇宙をイメージした内装の観光列車「HIGH RAIL 1375」も人気だ。
HIGH RAIL1375

JR標高最高地点、JR駅最高標高の野辺山駅を通過する観光列車「HIGH RAIL1375」 (c)大沢

 美術館では美ヶ原高原美術館が標高2000m。通称“雲の上のパン屋さん”と呼ばれているのが志賀高原の横手山頂ヒュッテ内のパン屋さんで2307m。その他、日本一高いコンビニや小学校などもある。 「馬鹿と煙は高いところに上る」……なんてことわざは気にすることなく、「日本一高い〇〇」を巡ってみるのもオツだろう。  また、高地トレーニングに最適な地としてスポーツ合宿も盛んに行われている。マラソン好きな人にとっては練習にも最適だ。  ……とこれまで「標高を語る」などと茶化したが、長野県民は慎み深く控え目な人が多いので、県の自慢を声高に語ることは実際のところ少ない。だが、胸に秘める郷土愛は人一倍熱く、真面目で、若干理屈っぽい(?)ところがあるので、山の名前や標高をテキトーに間違ったりすることは、恐らく……許さない。  そんな県民性も押さえつつ、ぜひ彼らと“山あるある談義”を楽しみたい。 〈文/大沢玲子〉
たび活×住み活研究家。鹿児島出身の転勤族として育ち、現在は東京在住。2006年から各地の生活慣習、地域性、県民性などのリサーチをスタート。『東京ルール』を皮切りに、大阪、信州、広島、神戸など、各地の特性をまとめた『ルール』シリーズ本(KADOKAWA)は計17冊、累計32万部超を達成。18年からは、相方(夫)と組み、アラフィフ夫婦2人で全国を巡り、観光以上・移住未満の地方の楽しみ方を発信する書籍『たび活×住み活』シリーズを立ち上げた。現在、鹿児島、信州、神戸・兵庫の3エリアを刊行。移住、関係人口などを絡めた新たな地方の魅力を紹介している。
1
2
おすすめ記事