仕事

旅するUber Eats配達員、宮崎の恋愛パワースポットで“彼女”を思う

“泉ちゃん”との出会い

 当時大学生で宮崎市出身の泉ちゃんと出会ったのはタイの首都バンコクのカオサン通りだった。大きなバックパックを背負った外国人旅行者がひしめき、通りの入り口には彼らをターゲットに客待ちするトゥクトゥクが何台も止まっていた。  彼女は大学のゼミの先生やメンバーといっしょにバンコクに来ていたらしいのだが、僕と会ったときはひとりで行動していた。 「ゼミの人たちとはいっしょに行動しないんだ?」 「みんなそれぞれやることがあるので」 「今頃、ゼミの先生はパッポンのゴーゴーバーに遊びに行ってるよ」 「行ってません! 先生はそんな人じゃないんです!」 「それはどうかな」  バーのテラス席でいっしょにビールを飲みながらいつまでもそんなくだらないバカ話をした。そして別れ際、彼女はノートの切れ端に自分のメールアドレスを書いて僕に渡してきた。彼女とのメール交換が始まったのはそれからだった。  お互いのメールの内容は日常のささいなことがほとんどだったのだが、やがて僕はその中で自分の内面を吐露していくようになった。その日もパソコンに向かって彼女宛てのこんなメールを打った。  泉ちゃん。俺、生きていくことが怖くて……。

自分の弱さをさらけ出せる唯一の存在だった

 彼女とのメール交換は10年近く続いた。が、その後、人生にいろいろあってメールを送ることが難しくなり、やがて連絡は途絶えてしまった。  それからもうかなりの年月が経つのに僕はいまだに泉ちゃんのことを忘れることができずにいた。彼女は自分の弱さをさらけ出すことのできる唯一の存在だったのだ。正直、今でも生きていくことは怖い。怖くないフリをするのが少しうまくなっただけである。  トゥクトゥクが青島神社の前に到着した。僕はボックスに500円玉を1枚入れて客席を降りた。  青空との色鮮やかなコントラストを成す赤い鳥居をくぐる。ヤシの木の生い茂る境内の一画にハート型の絵馬奉納所があった。その向こう側には日差しを受けて煌く海が広がり、鬼の洗濯板に打ち寄せる波の音を静かに響かせていた。
【96日目】 <支出> 食費:1242円 電車賃:560円 合計:1802円 <収入> 7004円 残金:7945円 【97日目】 <支出> 食費:1579円 トゥクトゥク:500円 合計:2079円 <収入> 0円 残金:5866円 【98日目】 <支出> 食費:1815円 電車賃:560円 宿泊費3泊分:5651円 合計:8026円 <収入> 8231円 残金:6071円 【99日目】 <支出> 食費:1967円 電車賃:560円 合計:2527円 <収入> 6725円 残金:1万269円 <取材・文/小林ていじ>
バイオレンスものや歴史ものの小説を書いてます。詳しくはTwitterのアカウント@kobayashiteijiで。趣味でYouTuberもやってます。YouTubeチャンネル「ていじの世界散歩」。100均グッズ研究家。
1
2
おすすめ記事
ハッシュタグ