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創業87年の銭湯が登録有形文化財に。店主が守り続けてきた「場」とは

伝統の中でアップデートされる小杉湯

小杉湯 ――そんな中、小杉湯には若いお客さんも多いと聞きます。その理由はなんだと思いますか? 平松さん:各家庭にお風呂がなかった時代は、銭湯がケ(日常)だったんですよ。でも、家庭にお風呂が出来てから銭湯が廃れていくようになりました。 ――一方で、スーパー銭湯などは台頭しましたね。 平松さん:銭湯の体験は、スーパー銭湯のようにハレ(非日常)の体験に変わっていったんですね。 ――その中で、小杉湯はどういった立ち位置にいるんですか? 平松さん:僕は、銭湯を「ケの日のハレ」と定義するようにしました。ケ(日常)の中に、ハレ(ちょっと幸せな瞬間)が作れるようにということですね。 ――そのために、どんなことをされていますか?
小杉湯

アメニティにもこだわりがある

平松さん:ちょっといいアメニティを置くようにしています。 ――銭湯にはシャンプーなどが置いてないところも多いですし、置いてあってもいわゆる業務用というところがほとんどですよね。
小杉湯

待合室にあるドリンク

小杉湯

老舗の銭湯とは思えない待合室も、人気の理由の一つだろう

 平松さん:それだと、ちょっと幸せな瞬間にならないんですよね。なので、待合室のドリンクも、コンビニや普通の自販機では買えないものにしたり、アイスもご当地アイスを置いています。

日々、場所に愛情をかける

小杉湯 ――老若男女に愛される小杉湯という「場」を保つために、今後何が必要だと思いますか。 平松さん:やっぱり、日々、場所に愛情をかけることです。日々の掃除をきちんとして、自分たちにできないところは大工さんにお願いしてやってもらう。この繰り返しですね。 ――労力も経費もかかりますね。 平松さん:正直、建て替えてしまった方が格段にメンテナンスは楽だし安上がりだと思うんですよ。だけど、ずっとみんなが守って来た大切なものなので、この先もずっと大切にしたいですからね。 小杉湯 ――「場」に、こだわりがあるんですね。 平松さん:コミュニティという文脈で銭湯が語られる時って「人と人」になるんですけど、それだと苦しくなることもあります。だから、銭湯では「場所と人」のコミュニケーションを大事にしたいんです。銭湯って、番台でお金を払ってから、お客さんは全部セルフサービスで、僕らが何かサービスを与えていることはほとんどないんですよ。人と人だとお互いに評価をし合っちゃうけど、場所は人を評価しませんよね。場所を整えておくことで、自然発生的に人が緩くつながって循環して行くようにしています。  歴史を重ねながら、令和の時代にも寄り添っていく小杉湯。是非、湯に浸かり、店主がこだわる「場」を体感して欲しい。<取材・文/Mr.tsubaking>
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。
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