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コロナに便乗した不当解雇が横行している。ユニオン交渉員の証言

 2月2日の厚生労働省の発表ではコロナ解雇・雇い止めの人数が8万4000人を超え、長期化するコロナ禍で会社や自分の将来に不安を感じる人も多いだろう。
嘆き

※写真はイメージです(以下同)

 今回は正規・非正規を問わず全国から不当解雇やハラスメントなどの無料相談も受け付けている「みんなのユニオン」で、交渉員として業務にあたる竹永一樹氏にコロナ禍での労働トラブルの実態を聞いた。

コロナ便乗解雇とは?

「『みんなのユニオン』で最も多く扱っているのは不当解雇です。日本の労働法では解雇に対し、非常に厳しい扱いをしており、経営者が『当然解雇できるはず』と考える事案でも、実際の裁判では解雇が次々に無効とされています」と語る竹永氏。  法律事務所で、刑事事件や交通事故の案件にパラリーガルとして従事した後、2020年4月の同ユニオン立ち上げ時から解雇・雇い止め・内定取消などの相談に対応している。そもそもユニオンの交渉員の仕事とはどのようなものなのか。 「相談者からヒアリングした上で会社に内容証明を送り、不当解雇の事実を伝えて、適正な慰謝料等を労働者に払ってもらえるよう交渉を行っています。労働事件の裁判は1~2年かかりますが、仮に裁判で争って正式に解雇が無効になった場合、会社側は判決が出るまでの間の賃金を全額支払う義務が課せられます。  それではお互い弁護士費用もかかりますし、経済合理性の観点から不毛なので、我々は会社側がそのリスクを負わない現実的な範囲で金額を提示し、裁判前に和解を提案するんです。和解金の額は賃金ベースの計算になり、具体的事情によって変動します。そこは組合員さんの希望を最大限叶えられるよう、会社さんと交渉をしていきます」  同ユニオンでは団体交渉に加え、会社に無料&匿名で届けられる通知書サービス活動も行い、多角的に会社にプレッシャーをかけ、適法な職場環境が守られるよう働きかけている。 「政府が雇用調整助成金などの支援金を大きく打ち出しているため、倒産件数も想定程多くはなく、リーマンショックや東日本大震災の時などに比べれば、コロナを理由として適法に解雇できる件数は少ないほうだと思います。 とはいえ業種、性別、地域などを問わず『便乗解雇』の相談は多いです。会社側も労働法で定められた解雇できる要件への理解が浅く、コロナで会社の売上も下がったタイミングで、ずっと解雇したかった人員を安易に解雇してしまうようなケースです。解雇に関する相談件数は波もありますが、特に11月後半から12月末にかけては急増しました」

解雇された証拠があれば交渉で有利

 コロナによる便乗解雇では“縁起”的な問題も介入することも少なくないようで、中には新年に向けて悪い運気を取り除くために解雇されたというケースまで実際にあったそうだが、副業関係のトラブルも増えているという。 「医療関係のクライアントで、コロナの影響で始めた副業が偶然バレ、『副業先の職場でコロナにかかると影響が大きい』という理由から解雇されてしまった事例もありました。たとえ副業禁止でも減給処分や注意による改善を求めることなく、いきなり解雇というのはまず認められず、最終的に金銭による和解に持ち込めました。  会社が債務超過で事実上従業員を雇えなくなった場合や、もしくは労働者が刑事事件で起訴され、かつ実名報道されたために会社へ著しく損害を与えた場合など、そのレベルの話となれば解雇も認められる可能性もありますが、経営が少し傾いたから解雇、とはできないのが日本の法制度ですね」  売上が立たずに苦しい経営に直面している経営者も多いだろうが、整理解雇も単に経営が赤字という理由だけでは要件を満たしたことにはならない。竹永氏はどんな形でも解雇されたらまずはユニオンに相談することを勧める。 「整理解雇の条件には役員報酬やボーナスのカットなどの回避努力義務があり、程度もありますが、むしろ手続きとしては先に減給などをするべきなんです。実際に雇用調整助成金など助成金もある中で解雇の必要は全くないのに、いきなり解雇してしまう会社さんは多いんですが、これは会社さんにとって非常に不利な状況になります。従業員10人の会社さんの事例で、6人を解雇すれば事業を維持できたにも関わらず、10人全員を解雇したという理由で解雇が無効になったという例も過去にはあります」  懲戒解雇も同様で、例えば会社のレジからお金を抜いていたなどの横領が発覚して解雇された場合も、自主退職の打診、減給や自宅待機処分などを行わなければ簡単に解雇は有効にならないという。 「みんなのユニオン」では交渉にあたって組合費や事前の着手金などは発生しない。相談前に注意すべき点はあるだろうか。 「裁判や示談の交渉では会社さんは都合の良いことしか言わないので、解雇通知書や解雇理由証明書をもらったり、メールや電話で問い合わせて解雇された言質をとって録音したり、解雇された事実を証拠として残しておくことが必要です。あとは我々に依頼していただければ、最終的に和解するまで会社との交渉をまとめるので、ご自身でやっていただくことはありません」
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中年会社員を襲う“退職勧奨”対策
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1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。SPA! やサイゾー、キャリコネニュース、マイナビニュース、東洋経済オンラインなどでも執筆中。いろんな識者のお話をうかがったり、イベントにお邪魔したりするのが好き。毎月1日どこかで誰かと何かしら映画を観て飲む集会を開催。X(旧Twitter):@tsuitachiii

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