「不安を感じやすい遺伝子」×「不安を抱えても頼れない孤独」
――社会の閉塞感という点では、失われた30年、人口減少と少子高齢化、コロナ禍による先行きの不安など、将来に希望を抱きにくくなっています。
前野 まず科学的な事実として
、日本人の約7割に当たる人たちが“心配性の遺伝子”とも呼ばれる「セロトニントランスポーター遺伝子SS型」を持っていると言われています。ですから、悲観的な要素が増えるほど、国民は過度な不安に苛まれ、ネガティブな同調が起きやすくなります。
加えて、村社会の濃い繋がりに生きづらさや嫌気が差し、人間関係に気を遣わずに済む都市部に人口が集中しています。ところが、人間関係が希薄化した都市部では、雇用や賃金の不安定になり、いざ苦境に立たされたときに頼れる人がおらず、孤独に苦しむ人が増加しています。これも日本人が幸福を感じられなくなっている大きな要因のひとつです。
――2018年にイギリス政府は、「孤独」を国を挙げて取り組む社会問題と認識し、世界で初めて「孤独担当大臣」を任命しました。今年2月19日に、日本でも「孤独・孤立対策担当室」を内閣官房に設置しています。『孤独・孤立は現代の伝染病である』と言われますが、都会に残れば独りぼっち、地方に移住すれば生活不安と袋小路です。
前野 幸福学の世界では、
「おせっかいを感じるくらいの人間関係があったほうが人は幸せを感じやすい」という研究結果が出ています。「都会の暮らし=幸福」とは限らないのです。さらに、このまま東京一極集中が続けば、東京の幸福度がどんどん下がっていく可能性があります。2020年は新型コロナウイルスの影響で東京都への転入超過が縮小しましたが、それまで20年以上にわたり、東京に人が集まり続けてきました。この結果、今後どういうことが起こるのか? すでに兆候は見られますが、これから
東京を中心に首都圏は“高齢者の街”と化していきます。
――コロナ以前は通勤やオフィス街が生活圏だったので、周囲には現役世代ばかりでしたが、リモートで日中に家の周りを出歩く機会が増え、「こんなに高齢者ばかりなのか!」と驚かされました。
前野 共感しあえる同世代の割合が相対的に減っていけば、現役世代の人たちは、ますます生きづらさや閉塞感を覚える可能性があります。