世界幸福度ランキングで日本は56位。日本人が不幸を感じやすい理由
「国際幸福デー」である3月20日、国連機関・SDSN(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)によって『世界幸福度報告書』が発行された。その中で発表された「幸福度ランキング」(対象:世界149か国)で、日本は56位。昨年の62位から上昇したとはいえ、依然として主要先進国・G7のなかで断トツの最下位。なぜ日本人は幸せを感じづらいのか? 幸福学を研究する慶應大学大学院教授・前野隆司氏に原因を分析してもらった。
――最新の幸福度ランキング上位ベスト5を見ると、1位フィンランド、2位デンマーク、3位スイス、4位アイスランド、5位オランダと、予想通り、北欧諸国が名を連ねています。対する日本は、相変わらず低迷しています。ランキングを見た率直な感想を教えてください。
前野 右肩下がりで順位を落としていた日本がわずかに上昇しました。ですが、その理由は、日本が幸福になったからというよりも、新型コロナウイルス感染症の被害が世界各国のなかで相対的に抑制されているからだという見方もあります。大枠では、日本の幸福度が低迷している状況に変わりはありません。
ただ、では本当に日本が不幸かというと、物事はランキングで示せるほど単純ではない。この幸福度ランキングは主観的なアンケートに基づいていますが、こうしたアンケートの場合、往々にして国民性や文化的な背景が色濃く反映されます。
たとえば、社会や地域との調和を重視し、他者とのバランスを取る集団主義的な思考が根付いている国の場合、“普通”であることに重きを置くので、点数も10点満点中5点付近を中心に分布します。これは特に、東アジア文化圏に見られる特徴です。
一方、個人の資質や価値観、達成感や満足度を重視する個人主義的な思考が根付いている国の場合、自己評価が高いので、点数は8付近を中心に分布します。欧米諸国に顕著な傾向です。
――日本のランキングが低いのは、実際に不幸なわけではなく、単にそういう国民性ということですか?
前野 実は、そうとも言えないのです。日本は非常に特殊で、これまでのアンケート結果を解析すると、集団主義の人たちが個人主義の人たちより少し多いくらいで、ひとつの国の中で2極化が起きていることがわかります。ただ、それ自体は多様性のある社会の証しでもあるので、決して悪いことではありません。
しかし、ここ数年のトレンドとして右肩下がりなのは見過ごせません。世界のGDPに占める日本の割合は1995年に最高となる17.6%を記録した後に低迷を続け、2010年には8.5%に、子供の貧困率もG7の中でもっとも高い数字を示しています。国力が落ちたことで、社会全体に閉塞感が漂っていると読み取れます。
――集団主義的な傾向もあれば個人主義的な傾向もある日本で、「ビジネスや社会的な成功がすべて」「成功者が幸福」という個人主義的な価値観が行き過ぎて押し付けられれば、不幸を感じる人も増えるのではありませんか?
前野 どちらが正しいということではなく、その人にあった形の幸せがあります。表現や社会通念として多様性という言葉が先行していますが、他者との比較ではなく、自分にあった幸せを感じられるようになるには、教育の段階からそうした価値観に触れて育った世代が成長するまで、時間がかかるかもしれません。
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