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“初舞台でウンコを漏らしてから……”「小野寺ずるのド腐れ漫画帝国 in SPA!」~第三十九夜~

クソをケツにびっしり挟んだ私が舞台上で喋り倒している

容赦ない明転。 クソをケツにびっしり挟んだ私が舞台上で喋り倒している。どの視点かお分かりか。これは当時の私の視点。つまり、舞台の神様・世阿弥が語る、〜演者が己の身体を離れた客観的な目で、自らの演技を見ることができる領域〜。 “離見の見” 信じ難いだろうが、その領域に素人が脱糞によって入ったのだ。 欲も、心も、魂も、何もない。あるのは私を見つめる私の目、それのみの世界。舞台の上の私は、怒ったり笑ったり忙しく見えただろう。しかしその内(うち)は凪。あまりにも明鏡止水。”ショートパンツからクソが漏れてやいませんか”。全ての意識は研ぎ澄まされて肛門。それ一点。

全てに”効いていた”

しかしこのとき、あんなにうまくいっていなかったお芝居が魔法のように、全てに”効いていた”。大袈裟ではなく、真後ろの先輩がどういう芝居をしているのかが見えた。前を見て言葉を発しながら、真後ろが見えたのだ。「がんばらなきゃ」で視界が狭くなっていては見えない世界。私ががむしゃらにやっている後ろで先輩は私が良く見えるよう繊細な芝居をしてくれていたということに、このとき初めて気がついた。 「ワンフォアオール・オールフォアワン」 こういうことなんです。最初の出番を終え、舞台からはけチアリーダーに早着替え。そしてトイレに駆け込み大量のトイレットペーパーを股ぐらに突っ込んだ。次は足を高く上げるダンスだから、飛び散らせてはテロとなるから。 ……どうしてだろう。10年前を思い返して私の頭にはQueenの『It’s A Hard Life』の歌詞が浮かんでいます。おかしな状況だ。私自身に責任がある。それは単純明快。誰にだって起こり得る。勝って負けて。君は終わったと言い、私は引き裂かれた。 ——–公演が終わり、初めて演出家に褒められた。 「千秋楽で初日が出たんじゃない?」 演劇人が言う初日が出たは「完成」の意味。 「初日が出たんじゃない、うんこが出たんだ」 叫びそうだった。私の力じゃなかった、脱糞という名のドーピングだった。私が言う愛だ魂だはクソによって吹き飛ばされ、表現の理想はクソによって打ち砕かれた。 10年経った今も演劇で悩むとクソを漏らせば良いのかもしれないと無力な私は思う。……しかし、私はまだ諦められない。いまだ見えない魂を舞台上に表出させたいと諦められない……。きっと”あの日の私”を、越えられるまで。
'89年宮城県出身の役者、ド腐れ漫画家。舞台を中心に活躍後、'19年に「まだ結婚できない男」(関西テレビ)で山下香織役、'20年「いいね!光源氏くん」(NHK)で宇都宮亜紀役など、テレビドラマでも活躍の場を広げる。また、個人表現研究所「ZURULABO」を開設し、漫画、エッセイ、ポエムなどを発表。好きな言葉は「百発百中」。 Twiter:@zuruart

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