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将棋の藤井聡太、超早指し棋戦でもブレない“規格外の終盤力”

永瀬の仕掛けに“最強の手”で応じる藤井

永瀬王座

永瀬拓矢王座

 持ち時間10分、考慮時間1分×5回と、超早指しで行われる本棋戦。将棋は角換わり腰掛け銀という、両者が得意としている戦形に。近年のタイトル戦でも頻繁に登場し、序盤から微妙な損得や駆け引きが繰り広げられる現代将棋において“花形”といった存在だ。先手番の藤井が9筋を突き越したのに対して、後手番の永瀬が反発して開戦。永瀬の積極的な攻めに対して、解説の中村修九段曰く“最強の手”で積極的に受けた藤井が、最後は切れ味鋭く寄せ切り、勝利した。すでに準決勝第1局で、渡辺明名人との対決を制した豊島将之JT杯覇者との決勝戦へと駒を進めた。局面図を見ながら、簡単に本局を振り返ってみたい。

▲藤井—△永瀬 53手目▲6六歩の局面

藤井、永瀬 8筋の歩を交換した後、飛車で横歩を取った永瀬の積極策に対して、持ち時間を使い切った藤井は、飛車の捕獲を視野に入れて6七の歩を強く6六へと突き出す。この手を見た解説の中村修九段は「最強の指し方です」と唸った。この歩を同飛と取れば、△6七に銀を上がって飛車を取れるが、相手の攻めを呼び込んでいるともいえるので、深い読みに基づいた、受けの勝負手という印象を受けた。この後、10手ほど進んだ局面の感想戦で、この手で空いた6七の地点に銀を打ち込んで攻める手も検討されていたことから、大きな岐路であったことは間違いない。

▲藤井—△永瀬 95手目▲2四飛の局面

藤井、永瀬 その後、お互いに持ち時間がなく秒読みに追われるなか、迫力ある応酬が続いて最終盤。5一にあった攻め駒の銀を金で取ったあと、当然、同銀と金を取る手を選択するのかと思われたが、藤井が選択したのは、2四飛と走って、王手をする手だった。△2三歩と防ぐと、▲3三銀成から▲3四飛という手順で詰むという。思えば、藤井がその規格外の能力を特に世に知らしめたのは、8歳のときからプロ棋士と同じ土俵で出場し続けた詰将棋解答選手権。12歳8か月で優勝、最年少記録を達成してから現在まで5連覇(20年度、21年度は未開催)。その終盤の読みの速度や精度の高さを、秒読み将棋の中でも間違えることなく指し続ける凄みは本局でも見せてくれた。局面図以下、永瀬が△2三銀と応じたのに対して、飛車を逃げることも、5一の金を取ることもなく、▲3一角! 以下、△同金▲3一銀不成と進んだところで永瀬の投了となった。
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超早指し棋戦ならではの迫力の応酬、スピード感
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