恋愛・結婚

男性を好きになり「諦めるしかなかった」男性の苦悩。顔で笑って心で泣いて

周囲もわかっていた

空 そんなある日のことだった。同じバイト仲間の中年女性がK君に訊いてきた。 「ねえ、K君ってさ、店長のこと好きでしょ?」 「え、え、え、そんなわけないじゃないですか! なんで僕があんなダサい奴を……」  彼はひどく動揺しながら答えた。 「隠さなくっていいって。もうみんなわかってるから」  他人の色恋にめざとい中年女性の目にはバレバレだったようである。

K君が抱える葛藤

 中年女性が続ける。 「だからね、こないだ店長に訊いてあげたのよ。K君のことをどう思っているのかって」 「はあ? ふざけないでくださいよ! 僕がいつそんなことを店長に訊いてくれなんて頼みました?」 「まあ、落ち着いて。どうやら店長もまんざらではないみたいだから」 「本当ですか?」 「店長もK君の思いにはうすうす気付いてたみたいなの」 「そうなんですか。で、店長はなんて?」 「店長はやっぱり女性が好き。でもね、もしK君が女装するのならまったく恋愛対象にならないこともないって」 「女装……」 「このことは絶対にK君に言うなって店長に口止めされてるんだけどね。もしK君がこのことを知ったら本当に女装してきてしまうかもしれないからって」 「で、店長に口止めされていることをどうして今、僕に話してるんですか?」  K君がそう問い詰めると、中年女性はペロッと舌を出してそそくさと逃げていった。  女装するのには強い抵抗があった。彼の恋愛対象は男性でも、性自認は男性だったからである。つまり男性として男性が好きなのであり、女性として男性が好きなニューハーフや男の娘とはまた違うのだ。  でも、もし女装することで店長が僕を好きになってくれるなら……。K君の心はずっと揺らいだまま、いまだ答えを出すことができていない。 <取材・文/小林ていじ>
バイオレンスものや歴史ものの小説を書いてます。詳しくはTwitterのアカウント@kobayashiteijiで。趣味でYouTuberもやってます。YouTubeチャンネル「ていじの世界散歩」。100均グッズ研究家。
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