仕事

プロピアニストの道を難病で挫折。故郷・淡路島で見つけた新たな「夢」

夢をあきらめた「その後」 淡路島でプリザーブドフラワー専門店をオープン

メイさんの作品

兵庫県立美術館で展示されたメイさんの作品

 退学後は、水商売のアルバイトを続けながら、花のアレンジメント教室に通った。手のしびれが残っているため、少しでもリハビリになればという思いだった。 「ピアノのコンクールに出場すると、綺麗にアレンジメントされた花を主催者の方などからプレゼントしていただくことがありました。それで以前から興味を持っていたんです」  教室でアレンジメントしていると、病気や嫌なことも忘れられる。熱中している自分がそこにいることに気が付いた。 「プリザードフラワーは、特殊な薬で花を加工して、枯れないようにします。私も生涯、投薬しなければいけません。どこか親近感を覚えましたね」  花に触れているだけで、沈んでいた気持ちが晴れていく。そんな感覚が心地よかった。ピアノと同じぐらい情熱を注げる新しい夢を見つけた瞬間だった。  通っていた教室の先生の後押しもあって、資格を取得。その後、神戸市でプリザーブドフラワー教室をはじめた。お菓子作り教室も一緒に開催するなど工夫を凝らした結果、生徒も少しずつ増えていった。そして2017年、プリザーブドフラワー専門店「Salon de May」を生まれ故郷の淡路島でオープン。貯金していた約500万円を使い開店した。しかし当初は、プリザーブドフラワーの認知度も低く、経営も厳しかった。  だがメイさんの時間をかけた丁寧な接客が次第に口コミで話題となった。すると客足は徐々に増えていった。さらにプリザーブドフラワーの普及のために出張レッスンもはじめた。そんな地道な努力の甲斐もあってか、2021年にはメイさんの作品が兵庫県立美術館で展示される快挙もなし遂げた。 「今までは自分の好きなピアノだけを追求してきた人生でした。これからはプリザーブドフラワーを通じて、人から人へ幸せが派生していくお手伝いをしていきたいですね」  人生をかけて挑んだ夢のピアニストにはもうなれない。それでもメイさんは生きていく。 「毎年2月に一凛のバラのプリザーブドフラワーを買いに来てくれる30代くらいの男性のお客様がいます。お話をうかがうと、奥様との結婚記念日に一輪ずつバラをプレゼントされてるそうです。1つのブーケになるまで買いためて、二人の金婚式の時にプレゼントしたいとのことです。素敵すぎますよね」  店に置かれた真っ白なグランドピアノ。その隣でメイさんは穏やかに微笑むのだった。 <取材・文/のぎ>
兵庫県南あわじ市出身のライター。主に淡路島に住む人や珍しい物にフォーカスを当てて取材や執筆活動をしています。 Twitter:@nogi0000awj
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