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親ガチャ・子ガチャの言葉に葛藤する夫婦も「子どもをつくるのが怖い…」

手を繋いで草原を走る親子

写真はイメージです。以下同

「親ガチャ、子ガチャという言葉を聞いていると、もう自分たちには子どもを生んで育てる権利さえないのかもしれないと思うようになりました。妻も同じように考えています」  沈痛な面持ちでこう話すのは、都内の清掃関連会社勤務・古藤文宏さん(仮名・30代)。派遣社員の妻(30代)と結婚したのは4年前だったが、その直後にコロナ禍に陥ると、古藤さんの収入は以前の3分の2程度に落ち込んだ。妻もそれまで勤務していた大手運送系会社から「派遣切り」にあい、夫妻の収入は激減。都心に借りた賃貸マンションの家賃の捻出が難しくなり、郊外のアパートに引っ越した。  ちょうどその頃、ネット上を中心に話題となっていたのが「親ガチャ」なる言葉である。子どもは親を選べず、裕福な家庭に生まれた子どもは幸せになる、反対に貧乏な家庭に生まれれば子どもまで不幸になる、という意味で使われることが多い。  もちろん、収入だけが幸せのバロメーターではない。だが、本音では“裕福なほど人は生きやすいだろう”と思っている人が多いからこそ、これだけ広まったとも言える。確かに、親の経済力や環境で、子どもの受けられる教育に格差があるのは現実だが…。

もっと裕福な家庭に生まれていたら…

 古藤さん夫妻は「親ガチャ」という言葉に、頭を殴られたような強い衝撃を覚えたという。 「私自身、九州の片田舎出身で、地元の工業高校を卒業したもののまともな就職口がなく、上京してなんとか仕事にありつけたんです。でも、いくら頑張っても収入は上がらず、趣味も持てず、家と職場を往復する生活が何年も続きました。  もっと実家が都会にあって裕福ならば、いろんな世界を知ることができたはずだし、勉強の大切さも知れたかもしれない。私自身、親ガチャではハズレだったのだと」(古藤さん、以下同)  妻も東海地方の過疎地域にある兼業農家出身。地元に仕事がなかったために上京し、大手アパレルメーカーの販売員として働いていたが、業績悪化により職を失った。その後は派遣社員として職場を転々としていて、古藤さんと同じように「親ガチャで運がなかった」と話すようになったという。

生まれてくる子どもが「親ガチャ」に失敗したら気の毒

 二人の出会いはオンラインゲーム。お互いにお金もなく、無料のオンラインゲームが趣味だった。ゲーム内で知り合い、境遇を曝け出すうちに惹かれあったという。 「式も挙げられなかったし、新婚旅行もいけない。でも、結婚したのだから子どもは欲しかった。しかし、なかなか子宝には恵まれず、自治体の助成金が出るからと不妊治療をおこなっていたんです。そのタイミングで、親ガチャという言葉を知った。わたしたちに生まれてくる子が、わたしたちみたいな思いをするのなら、それはあまりにも気の毒だと」  そんなに卑屈にならなくても…と思ったが、古藤さんは本心から言っているようだった。
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「子どもを作るのが怖い」
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新聞、週刊誌、実話誌、テレビなどで経験を積んだ記者。社会問題やニュースの裏側などをネットメディアに寄稿する。

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