更新日:2022年12月06日 15:01
仕事

路上ライブで月8万円稼ぐ元CA。早期退職後の波乱万丈

人前も歌も苦手なのに、路上ライブをする意外な理由

路上ライブ

北新地にて、路上ライブに聞き入るサラリーマンたち

 太田さんはこれまで人前に出ることがとても苦手だった。CA時代は機内アナウンスも苦手で、ましてや人前で歌うことなど考えられないほど。それなのになぜ稼ぐ手段として路上ライブを選んだのか。 「とにかく自分にとって怖いこと、恥ずかしいことをやろうと思ったんです。これまで人の目ばかり気にしている私でしたが、嫌だと思っていることをやってみたらどうなるんだろう?とふと思い立って。本当に嫌なことが起きるのか、やっぱり笑われたり無視されたりするのか?試してみたくなったんです。  それでも最初に路上で歌い始めた時は足が震えるほど嫌でした。楽譜も読めないし歌も全然うまくない。それなのに投げ銭ボックスを置いて歌い始めるわけです。図々しいと思われるのではないかと恥ずかしさでいっぱいでした」  しかし、歌い始めるとそんな不安は覆される。「頑張ってね」という声がかかり、拍手を浴び、「今度はいつここで歌うの?」などと温かい声ばかりをもらうことができたそうだ。そうして1年ほど、毎晩のように昭和の懐メロを中心に路上で歌っているうちに、人前で歌うことに慣れてきた太田さんは「もっと刺激があるところで歌ったらどうなるのか」と思うようになる。

“嫌なこと”の先にある喜び

「ネットで『大阪 怖いところ』って検索してヒットした西成の三角公園に向かいました。さすがに夜は避けて夕方くらいに行ってみたのですが、これまで歌っていた場所とは全く違う光景で。家のない方や昼からお酒を飲んでいたであろう方、いきなり喧嘩が始まったり騒ぐ人がいたり……。怖さから思わず立ち止まってしまい、『ほんとに、やる?』と自問自答して。それでもせっかく来たんだから、と歌い始めました」  公園の前で歌い始めると、酒の缶を持った男性が集まってきたという。 「中島みゆきの『時代』や『糸』を歌ったのですが、『自分がここにたどり着く前のことを思い出した』と泣いてくれた人がいたり、『お金はないけど』とずっと集めていた5円玉を35枚も投げ銭してくれた方もいました。  私は西成を怖がっていたけれど、実は温かい場所なのかもしれない、みんな孤独なんだなと感じ、ここでしか得られない経験ができた気がしました」  そんな経験を経て、太田さんはほぼ毎日のように異なる場所で歌うようになった。時には高級住宅街の芦屋で歌った。芦屋マダムに「やってることがすごい、ご馳走したい」とバーに招かれたこともあった。 「いろんな場所での人との出会いが楽しくて。どうしても嫌だった『人前で歌う』ということの先にこんな喜びがあったんだと驚きました。誰でも怖くて避けていることがあると思いますが、その奥に幸せがあるのですね」  さらに、夜間に路上で「あなたのお話聞きます」という活動も開始。通りかかった人の話を1時間~1時間半ほど聞き、相手の「お気持ち程度」の金額を受け取っているという。  これはコロナ禍で自分と向き合う時間が増えたものの、なかなか人と会う機会がなく誰にもアウトプットできないストレスを抱えた人たちの受け皿にもなっている実感があるそうだ。
次のページ
「どうなるかわからない」から面白い
1
2
3
4
インタビュー・食レポ・レビュー記事・イベントレポートなどジャンルを問わず活動するフリーランスライター。コンビニを愛しすぎるあまり、OLから某コンビニ本部員となり店長を務めた経験あり。X(旧Twitter):@KA_HO_MA

記事一覧へ
おすすめ記事
ハッシュタグ