さて、こうして批判、擁護、時評コラムを一通り見てみると、なんか引っかかるのです。いずれにも音楽そのものへの言及がないから。いい曲なのか悪い曲なのかすら誰も言っていません。異常事態です。
だとすれば、これはそもそも音楽作品なのだろうかとの疑問も浮かんできます。サム・スミスの訴えかけたい企みのために音楽が踏み台にされていないだろうか?
同様に物議を醸した「Unholy」が曲としても中東音階を用いてインパクトを残したのに比べると、「I’m Not Here to Make Friends」は冗長です。完全に映像に負けてしまっています。
メッセージの正当性は曲の質を裏付けるものではない。皮肉にも、サム・スミスは当たり前の真理を教えてくれたのです。
文/石黒隆之