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木村拓哉『教場0』を春ドラマベスト1といえるこれだけの理由

残り2話の見どころは?

 残り2話の見どころはまだある。まず第6話で十崎波琉(森山未來)に千枚通しでメッタ刺しにされ、意識不明状態が続く新米刑事の遠野章宏(北村匠海)はどうなるのか。  さらに、刑事指導官から教場の教官に転じたあとの風間は警察組織を憎むようになるが、なぜか。自分の右目も千枚通しで刺した十﨑の事件が関係していると考えるのが一般的だろうが、警察組織が逮捕に失敗してしまうのか。  たとえ遠野が殉職しても風間は警察組織を憎まない。その責任は遠野を守れなかった自分にあると考えている。第9話で遠野を刑事に推した警察学校長・四方田秀雄(小日向文世)に対し、「(遠野の負傷は)自分の責任です」と謝罪もしている。  ただし、遠野が殉職する一方で、捜査側の何らかのミスで十崎の逮捕を逃したら、風間は憤怒するだろう。遠野に限らず、サツカン(刑事、警察官)殺しの逮捕は警察組織の至上命題。殉職者との約束事だ。  第9話の犯人・篠木瑤子(早見あかり)が指摘した風間の抱える深い闇が何なのかも気になる。瑤子は恋人の人生を台なしにした元強盗犯を刺殺し、逮捕されたあと、風間本人に闇を指摘した。風間も否定しなかった。  ここで気づく。これまでに瓜原潤史(赤楚衛二) 、隼田聖子、遠野章宏、鐘羅路子、中込兼児と5人の新米刑事が登場し、全員の生活環境や生育歴などが描写されたが、主人公である風間については何も分からない。家庭はあるのか。それも残り2話で明かされるのだろう。  犯人役の演者たちの熱演もこの作品の魅力となった。第7話の犯人・劇団女優の筧麻由佳を演じた瀧本美織(31)は穏やかな気性の女性役が目立つが、今回は身勝手なサイコパスを演じた。ライバル女優を潰すため、大ケガをさせたあと、共犯の俳優を口封じのために殺した。不適な表情が憎々しく、迫真の演技だった。

視聴率でわかる若い層の支持の高さ

 第8話の犯人で薬物の密売人・名越哲弥を演じた小池徹平(37)も良かった。密売人仲間の女性(ソニン)を毒殺したのだが、強迫性障害なので、殺害現場での証拠隠滅が万全だったかどうか気になって仕方がない。  強迫性障害は、頭の中にしつこく浮かぶ不快な考えやイメージ(強迫観念)に捕らわれ、それを打ち消そうとする行為(強迫行為)を繰り返す。  生涯有病率は2%前後だから珍しい疾患ではないが、知らない人も多い。そんな中、小池は誰の目にも強迫性障害であるという状態を演じた。何かに突き動かされるように何度もゴミ箱を見てしまう姿は説得力があった。風間は名越の強迫性障害を利用し、犯行現場におびき寄せたから、小池の演技がカギを握っていた。  最後になってしまったが、伊上幸葉役の堀田真由の存在も大きい。クライムサスペンスなので行き詰まるシーンばかりだが、伊上が一服の清涼剤的な役割を果たしている。  第9話で中込とケンカし、それを風間にウソ泣きしながら告げ口したのには笑えた。福田は25歳だが、いつも老成された演技を見せる。  低視聴率と見ている向きもあるので、視聴率も付記しておきたい。第8話が放送された6月第1週(5月29日~6月4日)の個人視聴率は連ドラの中でTBS『ラストマン-全盲の捜査官-』に次いで2位。もうテレビ界の実務では使われていない世帯視聴率は『ラストマン』、テレビ朝日『特捜9』に次いで3位だった。  6月4日放送の第9話は個人6・0%、世帯9・9%。年齢別の個人視聴率では若い層の数値が高いのが目立つ。 <文/高堀冬彦>
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員
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