このイメージの流れでリリースされたのが、竹内まりやが作詞、作曲を手掛けたデビューシングル「MajiでKoiする5秒前」(1997年4月15日 オリコン最高2位)。
「恋はあせらず」(シュープリームス)のリズムに「恋するふたり」(ニック・ロウ)もしくは「JUST A MAN IN LOVE」(桑田佳祐)の黄金コード進行が乗った王道ポップス。時代錯誤的な古臭さが、デジタルでダンサブルな小室サウンド全盛の時代にかえって新鮮に響きました。
この万全に準備された“ダサさ”だからこそ、広末のボーカルに漂う暴力性が際立ちました。当時、高校の同級生がラジオから録音した音源を聞かせてもらったときに、“だいぶ声がしゃくれてるな”と感じたのを覚えています。つねに母音が反発しているのです。
これがたとえば上白石萌音や高畑充希だったら、もっと無難に歌うはずです。レシピ通り、分量通りに仕上げた焼き菓子のような味わいに仕上がるでしょう。
広末の歌はそれだけでは済まない“アク”があるのですね。