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「一緒に楽になりませんか」の一言に背筋が凍った…“秘境のタクシー”で体験した恐ろしすぎる出来事

「一緒に楽になりませんか」の一言に背筋が凍った

 その道すがら、しばらく黙っていた運転手が、ポツリポツリと語り出した。 「境遇についてのお話でした。『自分がこの仕事をしているのは、社長をしていた会社が潰れて、借金を返さなきゃならないからなんです。でもねえ、コロナになって観光客も減って、からっきしなんです。だからもう嫌になってしまってねえ。ああいう高いところに行くと、ここから飛び降りたら楽になれるのになあと思うんです』と……」  運転手は多額の借金を背負い、家族にも去られた。子供たちとももう何年も音信不通の状態だという。 「運転手さんに『大変だったんですね』と共感する言葉をかけたんです。そうしたら、『分かってくれますか? あなたも都会で疲れてここに来てるんですよね? なんなら、一緒に楽になりませんか……』と言われました」  走っているのは崖沿いの山道で、少しハンドルを切れば、切り立った崖から車を落とすこともできるような場所……。 「背筋が凍るような思いのなか、必死にフォローする言葉を考えました。『何言っているんですか、運転手さん。さっきの綺麗な景色を見たら、疲れなんて吹っ飛んじゃいましたよ。もう、そんな冗談言わないでくださいよー』って」

運転手が向かおうとした場所は…

 車内に嫌な沈黙が流れた後、運転手が口を開いた。 「気まずそうな様子で『そうですよね。いやー、冗談ですよ』と言いました。私は『お言葉に甘えたいところなんですが、ホテルの夕飯の時間が決まっているので、ホテルに向かってください』と告げました」  タクシーは、ホテルに向かう道を進むことに。 「帰りの道中、私はこれまでに経験した笑える失敗談を話し続けました。暗い雰囲気になるのが怖くて必死で……。ホテルに無事着いて料金を払い、運転手さんを見送る時は、足がガクガクと震えていました……」  その後、運転手が向かおうとした場所を調べてみると、有名な自殺の名所だったことがわかった。せっかく楽しみにしていた夕食も、残念ながら一口も喉を通らなかったという。 <TEXT/和泉太郎>
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め
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