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「他人の家のゴミ袋をチェックする」迷惑老人。なぜか近隣住民から感謝されるようになるまで

なぜか盗難が頻発するように…

 風変わりと思ったところで、それ以上のことは考えていなかった稲尾さん。しかし「カマキリ」が暮らすようになって間もなく、町に異変が起きるようになった。 「盗難が頻発するようになったんです。外に干していた服や、玄関先に置いてあった子供の自転車、庭に置いてあったバーベキューセットなど、あらゆるものに被害がありました。お祭りで使う神輿についていた飾りもなくなってしまって」  住民のあいだで問題が共有されると、ひとりの人物が浮かび上がった。盗難があった前後での「カマキリ」目撃談が、続々と寄せられたのである。 「盗みを働いては売り払い、そのお金で生活しているのではないかと噂されていました。防犯カメラを仕掛けるようになった家もありましたが、注意深く確認しているようなんです。対策のある家には盗みに入らないので、決定的な証拠は出ないまま。盗難被害は増え続ける一方でした」

毒を以て毒を制すことに成功

 そんなある日、「カマキリ」が住むアパートからけたたましい声が町に響いた。 「藤原さんが例の女性の部屋のドアを叩いて叫んでいたんです。『おい! あんた吉田さんの家の玄関にあった置き物持っていっただろ! 見てたんだからな!』と。はじめ女性は無視を決め込んでいましたが、藤原さんのしつこさには敵わなかった(笑)。わけのわからない叫び声を上げながら部屋を出るなり、藤原さんに食ってかかったんです」  秘密警察 vs カマキリの大一番の対決を、地域の住民が固唾を飲んで見守る。 「ご近所さん観察に余念のない藤原さんが、部屋のなかで証拠を見つけたんです。『やっぱり吉田さんの置物があるじゃないか!!』と、大騒動の果てに警察も駆けつけ、女性はついにお縄になりました。藤原さんは一躍ヒーローとなりましたね」  これまで煙たがられはしても、感謝はされなかった藤原さん。地域から賞賛を受けて満足したのか、監視の目も少しゆるくなったのだとか。 <TEXT/和泉太郎>
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め
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