更新日:2024年01月22日 17:11
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「ごめんなさい」を上司や先輩に馴れ馴れしく使う若者たちの心理。日本語学者が解説

 年の離れた部下との接し方には、いつの時代も悩まされるものだ。コロナ禍が明けてリモートワーク体制が解除された会社では、対面でのコミュニケーションに苦労している人も多いだろう。  そんな中、少し気になる話題を耳にした。ビジネスシーンで上司・先輩などの目上の人や、取引先に対しても「ごめんなさい」を使う若者が増えているというのだ。
ミーティングをする上司と部下

※写真はイメージです。以下同

 何かミスをしたり指摘を受けたりしたときに、「申し訳ございません」ではなく、カジュアルに「ごめんなさい」が使われがちだとか。彼らはなぜ、ビジネスの場で適さない言葉遣いをしてしまうのか。  その理由について、横浜国立大学の非常勤講師であり日本語学者の松浦光氏に解説してもらった。

若者の「ごめんなさい」は仲良くなりたい気持ちの表われ

松浦光

松浦光氏/本人提供写真

 若者が社内で「ごめんなさい」を使う理由を、松浦さんはこう分析する。 「前提として、人は相手や場面によって敬語を使い分けています。その基準となるのは上下関係だけではなく、親しさの度合いや、『ウチの人(例:家族・社内の人など)、ソトの人(例: 身内以外や社外の人など )』という感覚です。ところがアイドルの握手会に行くと、さまざまな立場の人がいるにもかかわらず、タメ口で話しかけてくることがあります。これは、“相手と仲良くなるためにあえて敬語を使わず、言葉を崩す話し方”をしているのです」  松浦氏によると、人間には“人に認めてほしい欲求”と“自分の領域に踏み込まれたくない欲求”が同時に存在しているという。この言語行動に関する配慮の意識を、“ポライトネス”(※1)と呼ぶ。私たちは日々、欲求のバランスを取りながら他人とコミュニケーションを取っているそうだ。 「言葉をあえて崩したり丁寧にしたりすることで、調整を行っているんですね。若者が目上の人に『ごめんなさい』を使うのは、認めてほしい・打ち解けたいという気持ちの表われかもしれません」

「ごめんなさい」を使う人たちの声

ごめんなさい 実際にビジネスシーンなど“よそいきの場”で「ごめんなさい」を使う人たちは、何を思っているのだろうか。筆者が周りの男女たちに聞いてみたところ、次のような答えが返ってきた。 「基本的に目上の方には『申し訳ございません』を使うけど、関係が築けてきたら『ごめんなさい』に切り替えます。ただ、『ごめんなさい』を使うのは信用・信頼している人か、信用したい、できそう、仲良くなりたいと思った方だけです。気を許していなくても、表面上だけ仲良く振る舞いたいときは『ごめんなさい』を使います」(女性・20代) 「上司や先輩でも、どちらかというと親しい方に対しては『ごめんなさい』を使います。自分が後輩から使われたら、親近感を持ちますね」(男性・30代)  松浦氏の仮説通り、ビジネスシーンであっても親睦を深めるために『ごめんなさい』を使う人はいる模様。一方で、「謝罪が軽く感じてしまう」など批判的な意見もあった。
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「ごめんなさい」が人をイラっとさせる理由
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福岡県出身。フリーライター。龍谷大学大学院修了。キャバ嬢・ホステスとして11年勤務。コスプレやポールダンスなど、サブカル・アングラ文化にも精通。X(旧Twitter):@0ElectricSheep0、Instagram:@0ElectricSheep0

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