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靴屋のセールストーク“信じてはいけない台詞”3選。長持ち、ラクの基準を疑うべし

こんにちは、シューフィッターこまつです。靴の設計、リペア、フィッティングの経験と知識を生かし、革靴からスニーカーまで、知られざる靴のイロハをみなさまにお伝えしていこうと思います。 靴屋も商売なので定番のセールストークがあります。今回、「それ、どうなの?」という謳い文句について一刀両断にします。「一生ものの靴ですよ」「オンオフ兼用ですよ」「このパンプスは走れますよ」。これら3つは注意が必要です。

「この靴、一生ものですよ」

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写真/PIXTA

昭和の頃から聞くキャッチコピー。お高めの靴を探しているときに囁かれます。100足以上のコレクションがあって、大事にメンテナンスしながらローテーションで履いているうちに主人の寿命が尽きた……なんてことでもない限り、「一生ものの靴」は言い過ぎです。 どんなに大事に扱っても靴の寿命は10年ほど。靴専門店や百貨店などで売られている高額な靴であっても、10年も履けば「履けるけど、みすぼらしい」靴になります。とくにビジネス用のドレスシューズは外見の劣化は致命的。 しかしショップは不況で必死なので「底の張り替えが何回もできるので、半永久的に履けます」などと甘言を弄してきます。嘘ではありませんが、維持費は莫大です。そもそも「半永久的」ってなんでしょうか。

「本格製法のグッドイヤー式なので長持ちしますよ」

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グッドイヤー製法といえば英国クロケット&ジョーンズ「オードリー3」。靴好きであれば誰もが憧れる一足。13万2000円。写真は販売サイトFRAMEより

「一生ものの靴」の根拠が「グッドイヤー・ウェルテッド製法」の靴です。略してグッドイヤー式と呼ばれ、国内外問わず販売価格は3万~20万円と高価な靴です。パーツが多く、手間がかかるので本格靴であることにまちがいはありません。パーツと手間の多さは、実はリペア(修理)を前提につくられているからです。筆者自身、15年以上リペアの現場にいたのでわかりますが、グッドイヤー式の靴は本体に負担がかからないつくりになっているので確かに直しやすい。
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このクオリティのオールソールで1万7600円は良心的。写真は靴修理大手オレンジヒールの公式HPより

ただし、「リペアしやすい=安く済む」わけではありません。メーカーやショップがいうところの「底の張り替え」(オールソール)は、1足で2万円ほどかかります。ヘビーに使うと2年ほどで底に穴が空くので、基本的にはオールソールすることになります。つまり2~3年に一度は都度2万円前後がかかることになります。 「グッドイヤー式の靴=半永久」にはもうひとつグレーな部分があります。本体と底をウェルトという細い革のパーツで縫い合わせるのですが、うまく縫わないとウェルト自体が2~3回のオールソールで使いものにならなくなります。すると今度はウェルトを完全に手作業で新調する必要があり、オールソール2万円とは別にプラス2万円前後がかかります。つまり、10年でかかる維持費は本体とは別に5万~10万円前後になる可能性もあるのです。 実際には修理のパーツもインフレで高騰しているので、さらなる値上がりは確定的。本格靴ショップの店員に聞いてみても、グッドイヤー式の靴であっても数年履いて「一度もオールソール修理をしない」方が8割以上とのこと。結局は修理費用を聞いて「新しく買ったほうがいい」となる人が圧倒的に多くなっているようです。よほど憧れのモデルでもない限り、グッドイヤー式の靴は一生ものどころか、歴史的遺産になりつつあります。 「一生ものの靴」にトドメを刺すのであれば、仮に多額の費用を投資してメンテナンスしても、本体の革そのものが10年も経つと硬化して劣化します。ヒビ割れや裂けは修理が不可能に近いでしょう。 誤解してほしくないのは、グッドイヤー式の靴を無闇やたらに批判しているわけではありません。実際に筆者も2足愛用しています。ただし、手放しで褒めるにはデメリットも多々あると知ってほしいのです。もっとシンプルなつくりで比較的安価な「マッケイ製法」や「セメント製法」の靴でも十分にいいものはありますし、これらは1万円程度でオールソール修理ができます。カカトだけ、つまさきだけのパーツ修理なら数千円で済みます。
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「オンオフ兼用ですよ」
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こまつ(本名・佐藤靖青〈さとうせいしょう〉)。イギリスのノーサンプトンで靴を学び、20代で靴の設計、30代からリペアの世界へ。現在「全国どこでもシューフィッター」として活動中。YouTube『シューフィッターこまつ 足と靴のスペシャリスト』。靴のブログを毎日書いてます。「毎日靴ブログ@こまつ

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