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“観測史上最大クラス”の積雪時に走ったタクシー運転手が感じた恐怖「カーブでドリフトのような状態に」

 一度の送迎で万単位の売り上げが期待でき、タクシー業界では重宝される“ロング”と呼ばれる長距離乗車のお客。「最近はそういうお客が減った」と嘆くドライバーも多いが、あくまでそれは日本人の話。いくら運賃が高くなったとはいえ欧米人にしてみたら母国よりも安く、訪日旅行中の足として利用する旅行者も珍しくない。  今年1月某日、札幌市内のタクシー会社に勤める沢口潤一郎さん(仮名・54歳)は、オーストラリア人家族を札幌から滞在先のニセコのホテルまで届けたとか。これまでは小樽や新千歳空港まで乗せることは何度もあったそうだが、ニセコはこの時が初めて。そのため、最初は「今日はツイてるな」と内心喜んでいたそうだ。
雪道 タクシー

画像はイメージです

待望の長距離乗車のお客獲得も当日は記録的な大雪

「ドライバーによってはロングのお客さんを嫌がる人もいますが、私は大歓迎。基本的に近距離の乗務ばかりですし、ひっきりなしに次々と乗せるわけでもないので売り上げもそこまで伸びません。もちろん、コロナ禍の頃に比べれば全然いいですけどね。ただ、外国人観光客が戻ってきてからは、『(旭川の)旭山動物園まで乗せた』『登別温泉まで乗せた』なんて景気のいい話が同僚の間でもチラホラ。行き先がニセコと聞き、自分も同僚に自慢できると思いましたが、この時は天気のことがすっかり頭から抜けていたんです」  ロングのお客を乗せる場合は会社に報告の義務があったため、無線で連絡。その際、「今日は雪が多いので気をつけてください」と言われ、ハッと思い出したそうだ。 「でも、タクシー運転手になって10年近いキャリアがあるし、道内出身なので冬道の運転には慣れています。だから、舐めていたわけじゃないですが、いつもよりスピードを少し落として運転すればなんとかなるだろうって。お客さんを乗せた以上、断ることはできませんし、そう自分に言い聞かせるしかなかったからです」

除雪が追いつかず、雪にハマって立ち往生している車も

 お客のオーストラリア人家族はこの日の午前中、ニセコからタクシーで札幌を訪れ、市内を観光。帰りはJRで戻ろうとしたが、この日はニセコのある小樽―長万部の区間だけでなく、札幌―小樽間も大雪で運休。雪に強い北海道の鉄道が止まってしまうほどのため、道路も国道なのに雪が積もって除雪が追いつかない状況だった。 「札幌からニセコまではひたすら山の中を通るルートもあり、小樽経由のルートより15㎞ほど近いのですが、こちらのほうがひどい状況になっているのは容易に想像できました。それでマシなほうを選んだつもりですが、小樽も観測史上最大クラスのドカ雪で想像を上回るひどさでした。実際、雪にハマって動けないトラックや乗用車が何台もあり、途中渋滞ができている箇所もありました」  カーナビなどで調べると、札幌―ニセコの車での所要時間は2時間15分前後。しかし、このときは予定を大幅にオーバーして目的地のホテルに着くまで3時間以上かかってしまったそうだ。 「ただし、お客さんは長時間の乗車でも全然イラつく様子もなく、ここまでの大雪を見たのは初めてだったらしく、興味津々といった様子で車窓の景色を眺めていました。父親のオーストラリア人男性は、翻訳アプリで《急いでないからゆっくりでいいですよ》と言ってくれたので、そこはすごく助かりました。ちょっと渋滞に巻き込まれただけであからさまにイラついた様子を見せるお客さんは多いですから」
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視界はほとんどなく、あわやスピンという場面も…
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ビジネスや旅行、サブカルなど幅広いジャンルを扱うフリーライター。リサーチャーとしても活動しており、大好物は一般男女のスカッと話やトンデモエピソード。4年前から東京と地方の二拠点生活を満喫中。

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