2024夏ドラマ“見逃したくない作品”5選。「期待度の高い社会派ドラマ」が揃いぶみ
夏ドラマが始まった。民放のプライム帯(午後7~同11時)に計16本。その中で特に期待度の高い作品5つをテレビ取材歴30年以上の放送コラムニストが紹介する。
(フジテレビ・水曜午後10時)7月3日スタート
東京の新宿・歌舞伎町にある小さな病院を舞台にした物語。脚本はクドカンこと宮藤官九郎氏(53)が書き、チーフ監督は『ロケットボーイ』(2001年)でクドカンと組んだベテランの名匠・河毛俊作氏(71)が務める。
主演は小池栄子(43)と仲野太賀(31)。小池はクドカン作品初出演だが、仲野はNHK連続テレビ小説『あまちゃん』(2013年)以来、クドカン作品の常連である。ほかの出演者にも濱田岳(36)、橋本愛(28)、平岩紙(44)らクドカン作品に慣れた俳優が多い。人間愛をユーモアに包んで描く、いつもながらのクドカン・ワールドを堪能できそうだ。
歌舞伎町の「聖まごころ病院」に勤務する高峰享(仲野)は金儲けを第一に考える医師だった。だが、急性アルコール中毒で病院に担ぎ込まれたヨウコ・ニシ・フリーマン(小池)との出会いから変わり始める。
ヨウコは米国で軍医だった。銃弾が飛び交う野戦病院で医療活動に従事していた。来日したのは死んでいった人からメッセージと大切な物を託されたから。享とは対象的に医師の使命は患者を救うことだと信じている。
ある日の歌舞伎町で外国人男性が銃で撃たれる。しかし、病院に行けない。男性には在留資格がないため、病院に行くと、強制送還となってしまうからだ。
それでもヨウコは外国人男性を聖まごころ病院に運ぶ。だが、医師たちはトラブルを恐れて尻込みし、処置をしようとしない。ヨウコは日本での医師免許がなかったものの、外国人男性の治療を始める。
立場の弱い患者たちをヨウコや享が救う。クドカン版の『赤ひげ』になりそうだ。
(TBS・金曜午後10時)6月28日スタート
作家・早見和真氏のベストセラー小説を原作とするヒューマン政治サスペンス。プロデューサーは共同テレビの橋本芙美氏。過去にはフジテレビ『フリーター、家を買う。』(2010年)などを手掛けており、小説の映像化が抜群にうまい人だ。
主人公の東都新聞記者・道上香苗(水川あさみ)が、若手政治家の高校時代について取材する。その政治家は43歳で厚生労働大臣として初入閣した清家一郎(櫻井翔)である。取材によって香苗は、生徒会長だった清家には鈴木俊哉(玉山鉄二)というブレーン役の同級生がいたことを知る。清家が書いた自叙伝には出てこない人物だ。
香苗が清家自身の取材に行ったところ、鈴木は清家の秘書になっていることが分かる。今も清家を全面的に支えている。というより、清家には主体性がなく、まるで鈴木に操られているようだった。ロシア人形のマトリョーシカには内部に別の人形がいくつも入っているが、清家の内側にも鈴木ら複数の人間が棲みついているのか。
物語の冒頭では鈴木と接触を図っていた香苗の父親で元新聞記者・道上兼髙(渡辺いっけい)が不審な交通事故死を遂げる。兼高は鈴木の実父で不動産会社社長の宇野耕介(河野達郎)が贈賄容疑に問われた28年前のBG株事件をスクープした。この事件を兼高は調べ直していたらしい。
BG株事件は値上がり確実の未公開株が政治家と官僚に賄賂としてばらまかれたものだが、なぜか政治家からは逮捕者が出なかった。罪を押し付けられる形となった宇野は裁判が始まる前に亡くなる。自死とされた。鈴木は父親を死に追い込んだ政治家たちに対し、清家を操って復讐しようとしているのかも知れない。
清家の後援会長で日本料理店経営者の佐々木光一(渡辺大)の存在も気になる。佐々木も同級生で、生徒会副会長を務めていた。
清家、鈴木、佐々木の3人が不気味なのは、長く濃厚な人間関係でつながっていながら、友情が感じられないところ。歯ごたえのある硬質の作品になりそう。原作者の早見氏は清家という男を書くとき、櫻井を思い浮かべていたという。
『新宿野戦病院』
『笑うマトリョーシカ』
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員
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