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『虎に翼』が最後まで熱狂を生んだ理由。朝ドラの常識を覆す“メッセージ性”の強さ

視聴者も正論と向き合った

 そもそもこのドラマは観る側が正論と向き合うことがあらかじめ約束されていた。第14条がテーマで、男女差別や民族差別などへの反意、さまざまな偏見への抗議が盛り込まれていたのだから、そうなる。世間では正論の影が薄くなるばんりなので痛快だった。  朝ドラは牧歌的な作品が目立ち、メッセージ性も弱い作品が多い。『虎に翼』は違った。示唆に富んだセリフが多かった。寅子はこんな言葉も口にした。 「誰でも失敗するの。大人もあんたも。でも真っ当な大人はね、1度や2度の失敗で子供の手を離さないの、離せないの。関わったら、ずっと心配なの」(寅子)  大人たちを信用せず、居候先の寅子の家も飛び出した戦災孤児・道男(和田庵)を、諭した言葉。子育ての極意のようだ。  第68回(1950年)では寅子のこんな言葉があった。吉田氏からのメッセージだったのではないか。 「おかしいと声を上げた人の声は決して消えない。その声がいつか誰かの力になる日がきっと来る。私の声だって、みんなの声だって、決して消えることはないわ」(寅子)

最後のエピソードに据えた専属殺人

 寅子はあきらめずに声を上げることの重要性を説いた。明律大教授で最高裁判事の穂高重親(小林薫)が、「尊属殺人の重罰規定は違憲」と主張したが、少数意見として退けられた直後のことだった。  穂高の声が消えなかったのは知られている通り。23年後、その主張の正しさが証明された。穂高の名誉を回復したのはやはり教え子の山田よね(土居志央梨)と轟太一(戸塚純貴)である。  2人は穂高と同じく尊属殺人の重罰規定は第14条に反すると主張した。それが認められ、被告の斧ヶ岳美位子(石橋菜津美)は重罰を免れた。美位子は自分への性虐待と暴力を長年にわたって繰り返してきた父親を殺害した。  尊属殺人をほぼ最後のエピソードに据えたのは第14条をテーマとするこの作品にふさわしかった。穂高の雪辱を晴らしたということもあるが、初の違憲判断が下された歴史的事件だからである。憲法にも不備があることを象徴した事件だった。
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「救いようもない世の中を少しでもマシにしたい」
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放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員

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